■「ルイの9番目の人生」アレクサンドル・アジャ

ルイの9番目の人生 [DVD]

 

 愛らしく賢い少年ルイ・ドラックスの人生は,まるで何かに呪われたかのようであった.ひどい難産の末にこの世に生を受けたルイは,0歳で全身骨折,5歳で感電,8歳で食中毒など毎年必ず危険な事故に遭い,幾度となく生死の境をさまよってきた.そして9歳の誕生日.海辺の崖から転落した彼は,奇跡的に命を取り留めたものの意識不明の重体に陥ってしまう.担当医のパスカルは昏睡状態のルイを救うためにあらゆる手を尽くすが….

 に1度必ず大きな事故に遭っていた少年ルイ・ドラックス.【1】逆子として難産で生まれる.【2】生後16週間で全身骨折.【3】蜘蛛に噛まれる.【4】蜂に刺される.【5】コンセントにフォークを刺し,身体の85%が感電.【6~8】重い食中毒.【9】叫びすぎて9分半呼吸が止まる.ルイは9歳の誕生日で致命的ともいえる事故に巻き込まれ,ついに昏睡状態に陥った.病床にあるルイの深層心理から浮上してくるいくつもの「問い」――果たしてそれは運命的な因果律によるものか,それとも人為的な因果か.

 ダークファンタジー的なミステリー仕掛けを感じさせ,中盤以降は衒いもないサイコスリラーの装いで鑑賞者に迫ってくる.9つの"受難"を受けるまで耐え続けたルイは,最後の禍いで人事不省に陥った.イギリス文学サキ(Saki)「スレドニ・ヴァシュター」の少年コンラディンと同様,非業の運命を背負っているかに見えたルイの悲愴.だが実は,彼の受難はすべて最も擁護者たるべき人物が患う"代理ミュンヒハウゼン症候群"による企図であった.しかも,その企てをルイが9年もの間,常に無自覚であったわけではなかった.

 彼の元々抱いていた「大人になれない(成長するまでに命を落とすだろう)」観念は,恐怖というより諦念に近い部分から兆すものだった.意識をもって生きていた時代,ルイ自身もペットのハムスターがげっ歯類の平均寿命(2年)を超えたとき,自らの手でハムスターを圧殺することを常としそれを「処分権」と呼んでいた.つまり,生殺与奪の権利は支配者の証で歓びそのもの.無意識下でメンターの使命を帯び登場する「シーモンスター」との対話により,ルイは,生命を侵害し一方的に奪う権利の傲慢というものを身をもって実感し教化を得る.

 この作品から最後に提示されるメッセージは,モラリストたるべき人間とは老いも若きもなく自らのもつ強権の「執行力」に気付いたものだけ,ということだろう.だから人物の型として「職業的な権威」は「女性の美貌」にあっけなく籠絡されるし,悪人に見えない美女が涙に暮れる姿は善意を偽装することにもなる.残念ながらこれは教訓ですらない.回避のしようがないからである.

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原題: THE 9TH LIFE OF LOUIS DRAX

監督: アレクサンドル・アジャ

108分/カナダ=イギリス/2015年

© 2015 Drax(Canada)Productions Inc./Drax Films UK Limited.