▼『トリフィド時代』ジョン・ウィンダム

トリフィド時代―食人植物の恐怖 (創元SF文庫)

 地球が緑色の大流星群の中を通過し,翌朝,流星を見た者は一人残らず視力を失ってしまう.狂乱と混沌が全世界を覆った.今や流星を見なかったわずかな人々だけが文明の担い手だった.しかも折も折,植物油採取のために栽培されていたトリフィドという三本足の動く植物が野放しになり,人類を襲いはじめたのだ!人類破滅SFの名作――.

 .G.ウェルズ(Herbert George Wells)以来の「侵略・滅亡」路線の作品で,本書を外すことはできない.描かれる人類の災厄は,「盲目を引き起こす流星群」「三本足の植物<トリフィド>の猛威(人類捕食)」という2つ.ジョン・ウィンダム(John Wyndham)は,異変――破滅――終末の経過を好んで描いた作家.トリフィドはソ連時代の新交配種として生み出され,目撃すれば視力を失う流星群は,アメリカ政府の開発した生物兵器人工衛星の破綻ではないかと主人公は推論する.

 人類破滅の葬送は,人類自ら種を蒔いてきた結果ではないか――生態系の一部としての文明社会の崩壊に戸惑う中,失明した人々をトリフィドは鞭状の刺毛で「狩り」,人の腐肉を吸う.圧倒的不利に追い込まれた人類側に,失明を免れた少数派のグループがとる行動,その背景としての思想が物語の機動力となる.流星群以前には,繁殖力が強く食肉性のトリフィドは危険部位(鞭)を剪定されて人類と共生していた.搾油に活用されていたトリフィドと人類の間には,確かに均衡関係が成立していたが,流星の目撃で人類優位が劣位へと変転してしまう.

 破滅型SFは,人間の生物的側面と文化的所産に言及する意味で極めて人類学的である.それが「思考実験」として提示され,恐怖のエクスタシーを演出する側面に,ウィンダムは傾倒していた.無論,「歪」(いびつ)で醜悪であろうとも,生態系の形態には変わりがない.そこに特権種としての人類は存在せず,トリフィド駆逐の手立てがないまま,新世界のコロニーを形成することに望みを託す群像が傷ましい.人類滅亡のサーガとして,堂々たる古典と評される作品である.

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Title: THE DAY OF THE TRIFFIDS

Author: John Wyndham

ISBN: 9784488610012

© 2010 東京創元社