▼『発展する地域 衰退する地域』ジェイン・ジェイコブズ

発展する地域 衰退する地域: 地域が自立するための経済学 (ちくま学芸文庫)

 大都市の気ままな流行りや,公共事業,工場誘致に頼るのはもう終わりにしよう!それぞれの地域が持つ財を利用し,住民の創意を生かした活動をしない限り,経済的発展はない!かつてのベネチアのように,必要なものを自らの手で作り,近隣地域と共生的な交易を行えば,技術は高まり,雇用も生まれ,地域は自然と活性化する.アメリカで大規模再開発により街が「死んで」いく過程を観察したジェイコブズは,街や地域が生み出すダイナミズムに注目,経済が発展・衰退する鍵を,古今東西の無数の例から探り出した.地域が自立するための処方箋を描いた先駆的名著――.

 機質な近代都市計画を批判した1961年の名著『アメリカ大都市の死と生』で,ジェイン・ジェイコブズ(Jane Butzner Jacobs)は都市計画論の寵児となった.しかし,本質的に市民運動家であった彼女は,適切に資料を検証することなく,少数の事例を一般化させようとする論理の飛躍をいとわなかった.本書でも,アダム・スミス(Adam Smith)の国民資本(national capital)概念をやすやすと批判するが,『国富論』第2編でスミスが説明した資本の「性質」「蓄積」「用途」を,根本的に理解していない.

 高等教育を受けずに出版業界に飛び込んだ経歴からすれば無理もないところだろうが,その無知をロバート・ソロー(Robert Merton Solow)に笑われても擁護する気になれない.ジェイコブズはしばしば「バーミンガムのような町」すなわち,経済的に強力なダイナミクスをもたない地域でも,輸入置換――輸入したものを自前で生産する――のスキルが不可欠,と説く.そうでなければその地域は衰退するのだ,と読者に脅しをかけることが,本書の主旨である.貿易理論と国際分業の基礎である「比較優位」をまったく無視した議論だが,では彼女は経済発展と発展をどう定義するのか.

私は前に,経済発展とは日常の経済活動の中にインプロビゼーションを取り入れることができるような状況のもとで,絶えず創意を加えて改良する過程であると定義した.これを敷衍して,発展とは,インプロビゼーションを伴う前例のない仕事への「漂流」であるということができよう

 まるで話にならない.アウタルキー(自給自足経済)や地産地消が通用するのは,モデルタウン事業のように圏域を狭く限定した場合であるにもかかわらず,ジェイコブズは国富よりも地域単位の富を尺度とする経済指標を本気で訴えている.労働を生産的労働と不生産的労働に分けたうえで,生産的労働から資本が蓄積されることをとらえようとしたスミスも,資本蓄積の整理には慎重だった.剰余と税と消費,さらには人間の消費性向が,個人的な財産の管理と公共支出に及ぼす影響を判断することがきわめて難しいからだ.

 ジェイコブズの主張まがいの思いつきは,そもそも先進国と途上国の間における垂直的国際分業,先進国間における水平的国際分業の整理をせず,生産要素の自然的要因,人的要因を考慮に入れていない.したがって,資本,土地,労働などの生産要素賦存量の差を比較優位の決定要因とする国際分業特化の原理を批判しているつもりでも,なんら痛痒を与えることができないのである.本書は,先発の著作の成功により,気をよくした市民運動家ジェイコブズの勘違いを証する第一歩となった.諫める人もおらず,2000年代に入ると,さらに市場と経済の本質を「批判」するかの風の本を書き連ねた.

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Title: CITIES AND THE WEALTH OF NATIONS

Author: Jane Jacobs

ISBN: 9784480095022

© 2012 筑摩書房