FBI捜査官のロナルド・フルーリは,絶対君主制の王国サウジアラビア“キングダム”で起こった在住アメリカ人を狙ったテロ殺害事件の捜査のため,エリート捜査員3人とともに現地に赴く.しかし彼らに許された時間はたったの一週間.他人を犠牲にしても私腹を肥やそうとする資産家たちや,一筋縄では行かない政治家たち,そして西側諸国を目の敵にしているテロリストなどそれぞれの思惑が複雑に絡み合い,やがて捜査官たちの命もが危険に晒される…. |
社会派ドラマを撮れば,渋味で圧倒的臨場感を演出してきたマイケル・マン(Michael Mann).しかし,「過去10年間のCNNヘッドライン・ニュースの裏側を見せる映画」と胸を張った発言は,撤回したほうがよいほどご都合主義のアクション作,というのが実際のデキである.サウジアラビア王国は,米国の重要なパートナーであると同時に,絶対君主制で国会は存在せず,要職は王族で占められている事実上の「王国」.莫大な富を生み出す豊富な天然資源・石油は,近代的高層ビルを乱立させるほどの経済力を国にもたらすが,宗教は依然として厳格なイスラム教であり続ける.これらのアンバランスさの上,政治的に介入を図る西欧諸国と,キングダム上層部の駆け引きが,この国の混沌とした事情をさらに複雑化させてきた.
サウジアラビア・リヤドの外国人居住区で自爆テロ事件が発生.多数の米国人死傷者が出る.事件で同僚を失ったFBI捜査官のフルーリーは現地での捜査を強く主張し,マスコミの手を借りてそれを実現した.一方,サウジではアブドゥル・マリク将軍が国家警察ハイサム軍曹の関与を疑っていた.ガージー大佐に迎えられたフルーリー一隊は,事件現場に直行する.その惨状に愕然とする中….
米映画雑誌「Variety」は2007年,緊迫する中東情勢を扱った映画が立て続けにアメリカで公開される皮切りに,本作を位置づけ重要視した.9.11以後のアメリカの対テロ政策を存分にアピールする意味でも,本作の立ち位置は明確であった.周辺国にイランとイラクがあり,片時も弱みを見せるわけにはいかないサウジには,映画の製作上,王族サウード家の立場を配慮しなければならない.それ以前に,テロ対策を緩めるわけにはいかないアメリカの立場も最大限,尊重しなければならない.これらの映画製作をめぐる「忖度」により,本作はシンプルな路線しか選びようはなかったと推測する.すなわち,胸のすくようなアクション劇である.
派手な市街戦と肉弾戦,黒のシボレー・サバーバンとAH-64アパッチの競演は見ごたえがある.石油によって癒着する王国の上層部と王族による搾取.石油利権に触手を伸ばすアメリカはこれを黙認しながらも,サウジ国内の一派が膨大な資金をテロリストに横流ししていることに睨みを利かせなければならない.国民が各国の事情に意味もわからず翻弄され,新世代のテロリストと憎悪を連鎖させていくことは,一面では真実だろう.だが,他国の内政に土足で踏み入った挙句,FBI捜査官全員がほぼ無傷であるのに対し,テロ組織は壊滅させられ,その過程でガージー大佐は命を落とす.表面的には「テロとの戦い」の泥沼化と不毛を問題提起しているように見えるが,その提示の仕方にアンフェアなものを感じさせてしまう.釈然としない感覚の理由は,ここにある.
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原題: THE KINGDOM
監督: ピーター・バーグ
110分/アメリカ/2007年
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