■「マイ・インターン」ナンシー・マイヤーズ

マイ・インターン [Blu-ray]

 ジュールズは,家庭を持ちながら何百人もの社員を束ね,ファッションサイトを運営する会社の社長.女性なら誰しもが憧れる華やかな世界に身を置く彼女.仕事と家庭を両立させ,まさに女性の理想像を絵に描いたような人生を送っているかに見えたが彼女には人生最大の試練が待っていた.そんな悩める彼女のアシスタントにやってきたのは,会社の福祉事業として雇用することになった40歳年上の“シニア”インターンのベン.人生経験豊富なベンは,彼女に“最高の助言”をアドバイスする.次第に心を通わせていく2人だが….

 別・国籍などの多様性は,企業業績にプラスの効果を生むと一般に考えられ,個々の「違い」を受け入れ認め合うダイバーシティ & インクルージョンに注目が集まっている.30歳で通販会社を立ち上げた若き女性CEOジュールズは,家庭内では専業主夫(育児担当)に"クラスチェンジ"した夫を顎でこき使い,子どもの日々の成長にも関心を払っていない.生き馬の目を抜く"戦場"で功を遂げてきた彼女は,25人で始めた企業を約1年半で200人を超える規模まで成長させてきた.つまり良妻賢母という観念を頭から否定してかかるタイプの女性で,そんなCEOの雑用係に採用されたのは40歳年上の“シニア”インターンのベン.

 高齢者の就労インセンティブを高め,勤労を促すべきとするワークフェア的理念に便乗してきたように思えた彼の果敢な活躍ぶりは,見ていて胸がすく.誰にでもできる雑用にも嫌な顔ひとつせず,年齢や役職のギャップにも臆せず幅広く社内スタッフと談笑できるだけでなく,――YouTubeFacebookなど若者文化からも――新たなスキルを摂取し与えられた仕事に生かすことを試みるオープンマインドの持ち主なのだ.彼の最大の武器は,長年の人生経験からくる結晶性知能であって,若き成功者ジュールズにはそれが決定的に欠けている.そのエピソードは後半に立て続けにテンポよく描かれるが,ご都合主義な点が目立つのが退屈きわまりない.

 社内と家庭の不測の事態に立ち往生するCEOを諭し,鼓舞し,叱咤激励するベンの姿は,若輩者を教導するメンターそのもの.人生経験の賜物として培われた智慧の前には,若い勢力も到底敵わない.マイ・インターンの主客は,見事に入れ替っていることにジュールズも自覚し謙虚にならざるを得ないのである.ただし,一般に企業内では多様性や包摂性を「持続的成長の原動力」と見なすことが半ば前提化しており,結局は人材多様化・活用による,自社の優位性や競争力を強化するビジョナリーの理解を出ていない.多様性を活かすための土壌がないままにダイバーシティを推進すれば,生産性はむしろ低下を招く.

 年を経れば誰でもベンのような賢さや先見性で若者を導くことが可能なわけではなく,その器を得るまでには資質を磨きぬく必要があるだろう.それは,彼にとっては妻を亡くしてからたしなむ太極拳――力を抜いて体を柔らかく,動作も呼吸と合わせて緩慢に行う健身術――に内包される太極思想を通じた修養が有意義だったかもしれないし,学問でもその他の技芸でもよいのかもしれない.主演2人の明るいキャラクターであまり説教臭さは感じない作品に仕上がっている.

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原題: THE INTERN

監督: ナンシー・マイヤーズ

121分/アメリカ/2015年

© 2015 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC.