▼『キュクロプスの窓』小町谷朝生,小町谷尚子

キュクロプスの窓―色と形はどう見えるか

 キュクロプスとはギリシア神話にでてくる一つ眼の怪物である.人間は左右の眼で別々にとらえた情報を脳の働きによって一体化し,キュクロプスのように一つの外界像を見ている.そこには必然的に歪みが含まれ,それが色彩や形態の認知のうえに現れてくる.本書は,この双眼一視というかたちをもつ私たちの視覚作用の驚異を,多くの図版を通して説明しながら,読者を視覚世界の裏面に展開される不思議世界に案内する――.

 ギリシア三大悲劇詩人の一,エウリピデス(Ευριπίδης)の戯曲に,シシリー島の怪物キュクロプスは登場する.キュクロプスの眼は1つで,人間は双眼一視.眼球の数は違えど,両者の脳内で形成される物体イメージは同一となる.

 左右の眼でとらえられた情報は,イリュージョナルな知覚となって視覚世界のディストーションを包摂している.本書は,視覚像と視覚作用の類型,空間と形態,色彩,非定位の視世界などの説明と検証を行う.色彩学は,白色光がプリズム混合色であるとしたアイザック・ニュートン(Isaac Newton)の色とスペクトルの言及に遡るが,本書は図学,デザイン学も視野に収める.

 本書は色彩論の試みだけでなく,ヘルマン・ヘルムホルツ(Hermann Ludwig Ferdinand von Helmholtz)による「三色原色の実証」,透視遠近法の実践や歪像(アナモルフォーゼ)の実際に至るまで,人間の視覚作用に対する生態的アプローチを丁寧に解説している.視覚学と色彩学の基礎理解に資する好著.

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原題: キュクロプスの窓―色と形はどう見えるか

著者: 小町谷朝生, 小町谷尚子

ISBN: 4889220763

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