■「未来を生きる君たちへ」スサンネ・ビア

医師のアントンは，赴任先のアフリカで言いようのない暴力の被害者に心を痛めていた．一方，母を亡くしたばかりのクリスチャンは，学校でイジメを受けているエリアスと出会う．エリアスはアントンの息子で，今は母と弟と暮らしているが，別居している父アントンを慕っていた．学校でエリアスをいじめていた少年をクリスチャンは殴り倒す．暴力に暴力で仕返しをする事の無意味を説くアントンだが，クリスチャンは納得がいかない…．

　この美しい邦題の作品は，原題をHAEVNEN（デンマーク語で「復讐」）という．個人レベルの諍い，子ども同士のいじめや喧嘩，デンマーク人医師アントンがアフリカのキャンプで直面するのは，救いがたい絶望と殺意を生じる人間の姿．暴力には様々な単位がある．パーソナルな問題から，グローバルなイシューをも浮き彫りにする手法は，人間の営みの中で過ちと呼べるものは，必ず因果を結ぶことを描き出す．

　悲惨な暴力が蔓延する難民支援の現場で，医師として赴任するアントンは，徹底した非暴力主義を貫く．それがアントンの息子エリアスの眼には，無抵抗主義に映る．過去の不条理に強い怒りをもち，現実の不満を殺意に転嫁する同年代の少年クリスチャンから受ける「感化」，エリアスの心に伝播する暴力の誘惑．実は，父アントンが対峙し克服してきたのは，暴力を向けられる恐怖などではない．

　理性を失うという誘惑――暴力行為――に対する拒絶なのだ．幼いエリアスとクリスチャンには，まだ理解の及ばない範疇であっても，破壊行為を現実にもたらしたからには，その責任から逃れられない．危うさをはらんだ世界に生き，未来を託された存在に照らされる光．カタストロフィを裂くことが期待される光明である．

未来を生きる君たちへ ブルーレイ [Blu-ray]

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原題： HAEVNEN

監督： スサンネ・ビア

118分／デンマーク＝スウェーデン／2010年

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