世界から憧憬の眼差しが注がれる経済大国? それとも,物真似上手のエコノミック・アニマル? 地球各地で収集したジョークの数々を紹介しながら,適材適所に付された解説により,異国から見た真の日本人像を描き出していきます.『世界の紛争地ジョーク集』『世界反米ジョーク集』に続く,同著者入魂の第三弾は,読者からも問い合わせの多かった「日本人をネタにしたもの」を満載しました.笑って知って,また笑う.一冊で二度おいしい本の誕生です.知的なスパイスの効いた爆笑ネタを,ぜひご賞味あれ――. |
しばしば特定の国家・人種・宗教・民族・政治などを笑いの対象にするジョークは,それぞれの国や人が状況の対処に違いを見せることを揶揄して成立する.ジョークを通じて外国からどう見られているかを初めて知ることも多く,翻って言えば,いかにわれわれが他国の文化について色眼鏡を通して見ているかを明らかにする.その揶揄の背後には,必ずジョークの根拠となる「見立て」が存在する.侮り,蔑み,羨望,嫉妬,脅威――ジョークは一般的なユーモアとは違い,当事者にとっては「シャレにならない」ものも存在する.ジョークのネタにされるのは「有名税」のようなもので,ある程度関心が寄せられる社会や人物に対してしか注目は集まらない.いかに怒りを買わず,機知にとんだジョークを飛ばせるかで社交の場は華やいだり興醒めしたりする.大人の駆け引きがそこにはあり,ジョークとは高度なコミュニケーション技術なのである.本来,ジョークとは虚構のものである.実話を面白おかしく紹介するのは揶揄であり,揚げ足とりとされかねない.しかし,虚構の背後には共通の事象を聞き手に認識させることが前提となる.その認識を笑いにつなげるには,ステレオタイプやマイナスの固定観念を強調・誇張することが多い.
ジョークにはいくつかの定型化されたパターンがある.たとえば「政治系」「色気系」「民族系」の3つのカテゴリーでくくれば,おのずとその国の得意分野がカリカチュアされていることがわかる.人種特有の行動からくる笑いを”エスニック・ジョーク”という.このジョークは,国と民族をかなり固定観念で類型化する特徴をもっている.フランス人=奔放で女好き,アメリカ人=独善的で自慢好き,ロシア人=酒好き,ドイツ人=堅物・真面目,イギリス人=堅苦しくて食事がまずい,そして日本人=勤勉・金持ち・会社人間.こういった紋切型イメージで語られる誇張的なエピソードが,しばしば人の笑いを誘うのである.
このように,小話として完結したジョークは,話の流れで独立したものとして扱われることが多く,「こういったジョークがあるんだが」と前置きして披露されることが多いという.しかし日本人であれば,「これからジョークを言うぞ」と予告してから話に入ることは少ないだろう.話の流れで関連したトピックを面白おかしく紹介するのが大半であるように思われる.日本もドイツもともに「堅苦しい」といわれがちでジョークのセンスもいまいちとされているが,聞いた瞬間に爆笑するタイプよりも,じわじわと余韻が笑いを喚起するもののほうが奥深くて楽しめる.もちろん,これは好みの問題である.政治色の強いジョークで顕著,外交のやりやすさや厄介さの本音が見え隠れする.どこの国で生まれたか知らないが,外交面で日本を皮肉り,あながち見当はずれでもないように感じたジョークが以下.
各国の政治家が集まって, 「どうしたら日本を怒らせることができるか」について話し合った.
中国の政治家が言った.
「我が国は潜水艦で日本の領海を侵犯した. それでも日本は潜水艦を攻撃してこなかった」
韓国の政治家が言った.
「我が国は竹島を占領した.それでも日本は攻撃してこない」
ロシアの政治家が言った.
「我が国はもう長きにわたって北方の島々を占拠している. それでも日本は攻撃してこない」
それらの話を黙って聞いていた北朝鮮の政治家が,笑いながら言った.
「そんなこと簡単ですよ.我々が核兵器を日本に使いましょう. そうすれば,さすがの日本も怒るでしょう」
すると,アメリカの政治家が首を横に振りながらこう言った.
「無駄だね.それ,もうやったもの」
日本人の穏健な性質,総じて謙虚な国民性が表されたタイプと言えるジョークだが,その穏健さは忍耐力をイメージしているのかもしれないし,臆病さを指摘しているかもしれない.謙虚さは意気地のなさと同義と考える国民性も他国には存在するだろう.2007年3月,英BBC放送と米メリーランド大学が2006年11月から2007年1月の間に27カ国の約2万8000人を対象に行った国際世論調査の結果が公表された.内容は,日本,中国,北朝鮮,英国,フランス,ロシア,米国,カナダ,インド,イラン,イスラエル,ベネズエラ,欧州連合(EU)のそれぞれについて,世界に好影響を与えているか,悪影響を与えているかどうかを尋ねた結果である.この列挙された12カ国について「世界に与える影響が肯定的か否定的か」を尋ねたところ,「肯定的」という回答の割合が最も高かったのが日本とカナダで,それぞれ54%だった.これに欧州連合(EU)53%,フランス50%,英国45%などが続いた.あるいは,アメリカのシンクタンク「シカゴ地球問題評議会」が2007年に日本,米国,中国の3カ国を対象に「世界の中で責任ある行動を取ることへの信頼度」を世界16カ国(約500-2500人を対象)で聞いた調査でも,「大いに」と「ある程度」を合わせ日本への信頼度は平均46%で,アメリカ(同41%)および中国(同38%)を上回っていた.
こういった国際世論調査結果からは,左派系の新聞で紙面を賑わせる「アジアからの孤立」「世界からの孤立」といった日本の姿は想像できない.ジョークは形式的なコミュニケーション技術である.アンブローズ・ビアス(Ambrose Bierce)が諷刺で真実を茶化したように,ジョークというフィルターを通して知ったなら,面と向かって言われるよりも怒りの感情を和らげることができる.ただし,伝え方によっては火に油を注ぐ結果になりかねないため,差別を連想させるものは避けたほうが無難ではある.国民性というのは最大公約数として認知されているに過ぎず,そのイメージに当てはまらないことも往々にしてあるけれども,先入観は物事の判断を大きく左右するものだ.いわば,そういったイメージは国や人々を語る一種の「象徴記号」として意志と情報の疎通に作用するものなのかもしれない.英語圏では,ジョークの対象を“butt”という.「尻」や「銃の“座”」を意味する言葉だ.座れば尻が地面に付き,銃を捧げて立てば銃座が地面に付く.転じてジョークの標的になることを「こつんとあたる場所」と見立てて俗称としたわけだ.いつの時代も,ジョークは権威への反抗やタブーへの挑戦を暗示する.世界最古のジョークは,4000年前のイラクの人々の笑いを誘ったものだったという.これはイギリスのジョーク研究者が2008年に結論付けた結果だが,世界最古のジョークの題材は,「おなら」だった.
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原題: 世界の日本人ジョーク集
著者: 早坂隆
ISBN: 4121502027
© 2006 中央公論新社