▼『勲章』栗原俊雄

勲章 知られざる素顔 (岩波新書)

 毎年四月と一一月,それぞれ約四〇〇〇人への叙勲が発表され,メディアも大きく報じる.だが,そもそも勲章はいつ,何のために生まれ,どんな変遷をたどってきたのか.人選や等級はどんな基準と手順によるのか.人間の序列化,官尊民卑の助長など,批判はどう展開されてきたか.勲章の製造現場や売買の実情もまじえて,その表と裏を描く――.

 んらかの叙勲制度を,多くの国はもっている.イギリスのガーター勲章,フランスのレジオンドヌール勲章芸術文化勲章など.日本でも春と秋に,毎年約4,000人ずつ叙勲者が発表される.旭日大綬章,旭日双光章,瑞宝小綬章瑞宝単光章――大勲位を最高とし,その下に勲一等から勲八等までの8等級の勲等に区分される.国家社会に勲功のある者を賞すべく授けられる位と勲章と等級.日本国憲法にもとづき,国事行為としてなされる叙勲には,国家が功労者を選出することへの批判が常にある.

 ほとんど嫌悪的なアレルギーを表明したのは,山岡鉄舟福沢諭吉.比較的冷静に疑念を呈したのは,叙勲制度が国家権力による査定と化していると見做した城山三郎,自身の戦後国家観を背景に,文筆者としての批判精神に悪影響を及ぼすことを懸念した辻井喬あたりか.功名心や自己顕示欲を巧みにくすぐり,階級支配の道具として機能している「栄誉の象徴」.各界の有能な人材への貢献インセンティブを植え付けるには,きわめて有効だろう.その意味で,本書「勲章の売買価格」の下りは興味深い.

 勲章の製造,貴金属の品位証明などは造幣局が担うが,原則として勲章の原価コストは明らかにされていない.栄誉に値段は付けられないはずだが,闇売買やコイン・コンヴェンションでは出品に「相場」が設けられることは避けられない.勲章の「実売価格」は生々しい.笑えないのは,左翼系の団体が叙勲者に挙げられた場合.社会党委員長・石橋政嗣氏は,国会で「社会党員は受章を拒否する」と宣言したが,加藤寛十氏,加藤シズエ,社会党委員長を務めた勝間田清一村山富市も受章した.蛙は口ゆえ蛇に呑まるるという.

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原題: 勲章―知られざる素顔

著者: 栗原俊雄

ISBN: 9784004313069

© 2011 岩波書店