▼『アメリカ講義』イタロ・カルヴィーノ

カルヴィーノ アメリカ講義――新たな千年紀のための六つのメモ (岩波文庫)

 これからの文学に必要なもの…それは「軽さ」「速さ」「正確さ」「視覚性」「多様性」である.神話や古今の名著名作を考察の対象に収めながら,自らが作家として目指してきたところを示しつつ,紀元三千年にいたるまでの長大な未来を視野に入れて,疲弊した現代文学を甦らせる処方を語るカルヴィーノ(1923‐85)の遺著.ハーヴァード大学ノートン詩学講義(1985‐86)のために準備された草稿――.

 想性に寓話性,リアリズムを融合させたイタロ・カルヴィーノ(Italo Calvino)の遺稿.ハーバード大学における連続講義のための原稿『カルビーノの文学講義』未完成のまま,彼は急逝した.講義の主題は,完全に自由な設定となっていて,「次の千年紀に保存されるべきいくつかの文学的な価値」を貫くキーワード――「軽さ」「速さ」「正確さ」「視覚性」「多様性」――が設けられた.

ときとして,私には人間的なものの世界が否応なく重苦しさを免れられないもののように思われるのですが,そんなとき私はペルセウスのように別の空間へと飛んでゆかなければならないというように考えます.これは夢とか非合理なものとかへの逃避ということを言っているのではありません.私自身のアプローチの仕方を変えなければいけない,つまり,別の視点,別の論理,別の認識と検証の方法によって世界を見なければならないということなのです

 6つ目の要素には「一貫性」が挙げられる予定だったが,カルヴィーノの死により文章化されていない.従来『カルヴィーノの文学講義』として刊行されてきた版も絶え,本書は「《補遺》始まりと終わり」を追加した復刻版.オウィディウス(Publius Ovidius Naso),ルクレティウス(Titus Lucretius Carus)ら古代の文学的価値を論じる他方,ホルヘ・ルイス・ボルヘス(Jorge Luis Borges)の想像力と言語における正確さという「美的理想の実現」を評価する.

今や閉ざされんとするこの千年紀は,西欧の近代諸言語とまたこれらの諸言語が担っている表現力・認識力・想像力の可能性を探索してきた各国文学が生まれ出て, みごとに開花するのを目のあたりにしてきたのでした.それはまた,物体ものとしての書物が今日の私たちにとって馴染み深い形をとるのを見てきたという点で, 書物の千年紀でもあったのでした.たぶん,この千年紀が今,閉ざされつつあるということの徴候は,いわゆる 工業後の,テクノロジー時代において文学と書物の運命はどうなるのかと,私たちが問いかけるその頻繁さなのでしょう

 縦横に言及,引用される文献の多様さに驚嘆するほかない.処女作『蜘蛛の巣の小道』はネオレアリズモの傑作,カルヴィーノは戦後のポスト-モダン小説の先駆的存在として,注目されてきた.新たな千年紀に必要な造詣を篭めた本書は,文学論に留まらず,科学論や宗教論を射程に収めている.論理や視点,観念に拾うべきものが多くある.

想像力の働き方には二つのタイプが区別されます.すなわち言葉から出発して視覚的なイメージに到達するものと,視覚的イメージから出発して言語的表現に行き着くものと

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Title: LEZIONI AMERICANE

Author: Italo Calvino

ISBN: 9784003270950

© 2011 岩波書店