▼『夜明けのヴァンパイア』アン・ライス

夜明けのヴァンパイア (ハヤカワ文庫NV)

 「私がヴァンパイアとなったのは,25歳の時,1791年のことだ…」彼はそう語りはじめた.彼の前にはテープレコーダーが置かれ,一人の若者が熱心に彼の言葉に聞き入っている.彼は語る.アメリカからヨーロッパへ,歴史の闇を歩き続けた激動の200年間のことを.彼をヴァンパイアとした"主人"吸血鬼レスタトのこと,聖少女クロウディアとの生活,東欧の怪異,訪れた破局.伝説の存在,吸血鬼への驚愕すべきインタヴュー――.

 766年に生まれた青年ルイは,25歳で吸血鬼に転生し,加齢の法則に逆らう永遠の生命を得た.イギリス発祥の産業革命アメリカ独立戦争フランス革命南北戦争ロシア革命,2度の世界大戦,冷戦の終結――20世紀に至るまで,すべての世界情勢を陰から眺めてきた.アン・ライス(Anne Rice)の生み出した超常的存在.

 クロニクルを現代の青年に妖しく語るルイは,永遠の時間と美貌を手にした代償に,陽光を失い,永劫の孤独を生きるエピタフ.肉体と魂が不滅になれば,人間だった「モノ」は魔物となり,人生観をいかに獲得するのか.それは,常人には想像すら及ばぬ領域.幼女クロウディアを行き掛かり上,眷属に加えてしまったレスタトとルイは,人間性を奪い去る業の深さを思い知ることになる.

 人間性には,美しさと醜悪さの二面性がある.太陽光に曝されるか,頭部を完全に破壊されない限り,不死であり続ける吸血鬼.だが完全無欠にはなりえない.人間を超越した肉体に精神の脆弱さが追随できず,衰滅を辿る悲劇性にライスは目を向け,インタビュアーの青年が憧れる魔の領域の酷薄さを示す.世界観は幻惑的だが,耽美性の域に到達するほど妖艶ではない.チープさを残している.

 続編『ヴァンパイア・レスタト』以後,ヴァンパイア・クロニクルズは,同性愛傾向を強め吸血鬼の自伝要素を維持している.人間を「やめる」悲哀を味わい,外縁から人間世界を眺めることができる異世界の住人の優越感と劣等感.その醍醐味は,シリーズ初作である本書が最も画然としている.

++++++++++++++++++++++++++++++

Title: INTERVIEW WITH THE VAMPIRE

Author: Anne Rice

ISBN: 9784150404642

© 1987 早川書房