■「美女と野獣」ジャン・コクトー

美女と野獣 [DVD]

 美しく心優しい娘ベルは2人の姉に虐げられながら暮らしていた.ある日,姉妹の父は森の奥へと迷い込み,不思議な古城にたどり着く.父がベルへの土産にしようと庭に咲いていた1輪のバラを摘み取ると野獣が現れ,バラを盗んだ代償として,命と引換えに娘を1人差し出すよう脅す.父を助けるため自ら城へ行くことを望んだベルは,野獣の恐ろしい姿に怯えるが,次第にその純粋さに心惹かれていく….

 像力を掻き立てるのは,フィルムのリアルさよりも豊かさにあることを,ジャン・コクトーJean Cocteau)は,この映画で証明して見せた.冒頭のコクトー自筆の字幕〈世界はいま,あらゆるものを破壊し去ろうと熱中しているが,おとぎ話が天国へ寝そべったまま連れていってくれた,あの少年時代の信頼感と素直さとを取りもどしたい〉.

 彼の試みは常に挑戦的だった.作家,詩人,映画監督と芸術の領域で才能の多面性を見せるとともに,本作で主演を務めた同性愛のパートナー,ジャン・マレー(Jean Marais)とミイラフォレにある館を購入して同棲した.煌びやかで幻想的な野獣の館,宝石があしらわれたドレスは,モノクロであることを忘れさせるほどに美しい.館における,人の腕になっている燭台や柱の動く彫像.

 映像の美的感覚と幻想性は,普遍的なエッセンスに充ちている.岸惠子はこの映画を見て,女優になることを決めたという.同性愛を公言していたコクトーは,本作で「おとぎ話」であることを強調している.野獣の心にひそむ優しさと,ベルの美しさに劣らない誠実さが融合するまでの経緯がまったく描かれていないが,それも寓話とロマンの黙諾の範疇にある.

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原題: LA BELLE ET LA BETE

監督: ジャン・コクトー

95分/フランス/1946年

© 1946 DisCina