▼『青の炎』貴志祐介

青の炎 (角川文庫)

 櫛森秀一は,湘南の高校に通う十七歳.女手一つで家計を担う母と素直で明るい妹との三人暮らし.その平和な家庭の一家団欒を踏みにじる闖入者が現れた.母が十年前,再婚しすぐに別れた男,曾根だった.曾根は秀一の家に居座って傍若無人に振る舞い,母の体のみならず妹にまで手を出そうとしていた.警察も法律も家族の幸せを取り返してはくれないことを知った秀一は決意する.自らの手で曾根を葬り去ることを….完全犯罪に挑む少年の孤独な戦い.その哀切な心象風景を精妙な筆致で描き上げた,日本ミステリー史に残る感動の名作――.

 も冷静で思慮を湛えた深い群青あるいは紺碧.倒叙ミステリーの傑作ともされる本作は,17歳という年齢に似つかわしくないほど,緻密な犯罪の挑戦と破綻を描く.類まれなる精神力で激情を抑制した青い炎は,紅い火炎をはるかに凌ぐ温度を盛らせる.

 湘南の高校に通う櫛森秀一は,母子家庭で育った.妹と母との3人暮らしである.母が10年前に再婚してすぐ離婚した男・曾根が一家の前に現われてから,不穏な空気が漂い始める.恐喝まがいに母を脅し,妹にまで暴行を働こうとする曾根に対し,この男の人生を”強制終了”させることを秀一は決意する.

 少年らしい衝動性と短絡的な殺意の割に,その決行はヒロイックで周到である.本書で実行された殺害トリックは,現実に再現しようと思えば容易であるが,ある理由によってほぼ確実に失敗するという.若すぎる殺人犯の最後の決定よりも,殺人者となった高校生に対し,1つずつ物証を挙げて論破していく警察,すなわち武道の無為の構えに通ずる論理の力で,犯罪者を無力化させていく描写が精妙である.

++++++++++++++++++++++++++++++

原題: 青の炎

著者: 貴志祐介

ISBN: 9784041979068

© 2012 角川書店