舞台は二世紀頃のローマ.次々と出される料理を楽しみながら,その材料や料理法や食器や食べ方等々について,宴に招かれた客たちが競って蘊蓄を披露する.知ったところでたいして役に立つとも思えぬ話も少なからずあるが,しかし無類に面白い.この奇書の著者については,その名アテナイオス以外,ほとんど何も分っていない――. |
ギリシア語散文作家,雄弁家,文法家であったとされるアテナイオス(Athēnaios)は,ナウクラティス(エジプト)出身,経歴は一切不明.本書以外に「タラッタ」という魚についての論文,シリア諸王の歴史を論じた著作,2点をなしたというが,両方とも散逸しており確認できない.
最古の「料理大全」とよぶべき本書は,食卓を囲む2世紀のソフィスト(賢人)たち33人が,前菜から始まる料理に舌鼓を打ちながら,延々と薀蓄の限りをつくす長大な対話篇.列席の博識な客人とは,文学者,詩人,演奏家,哲学者,医師,役人,法律家など.談論風発,彼らの蘊蓄は美食学(ガストロノミー)にとどまらない.グレコローマン時代の食事観はもちろんのこと,話題はローマの文学,音楽,医術,風習の広範囲におよぶ.
競って披瀝される一夫一婦,一夫多妻,売春,道化,奴隷,少年愛などに関する雑談は,ギリシアの喜劇・文芸・歴史からの厖大な引用で知識や説話がここに貯蔵されている.特に古代ギリシアの中期喜劇,新喜劇の引用は文学的価値が高い.岩波文庫版は抄訳であるが,この奇書の魅力を味わうにはこれで十分.むしろこれ以上の長さになると,通読が苦痛になる.全訳版は京都大学学術出版会の西洋古典叢書全15巻である.
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Title: Δειπνοσοφισται
Author: Athếnaios Naukratios
ISBN: 4003367510
© 1992 岩波書店