| 十七世紀，フランスの政情の紊乱は目をおおうべきものであった．ルイ十三世はカーディナル・リシュリューの傀儡と化し，プロテスタントと貴族との確執は絶えることがなかった．リシュリューの策謀によって，地方都市の自治体制廃止が布告され，フランス西の地方都市ルーダンにも，城壁破壊の命をおびたリシュリューの手先ローバルドモンが乗り込んだ．ところがこのルーダンには，思いがけぬ妨害者がいた．ユルバン・グランディエという三十五歳の司祭である…． |
欧州の退廃主義は，“太陽王”ルイ14世（Louis XIV）による異端ジャンセニスト抑圧，また1680年代には国内ユグノーに対する大弾圧の開始で宗教的に爛熟を迎える．「イマジネーションとバイオレンスの映像作家」と呼ばれるケン・ラッセル（Henry Kenneth Alfred Russell）が取り上げた17世紀フランスの小都市ルーダン．ルイ13世（Louis XIII）の醜悪な舞台《ヴィーナスの誕生》．背中に巨大な瘤をもつ修道院長．ルーダンの教会の司祭でありながら，性的放埓をなし孤立するユルバン・グランディエ（Urbain Grandier）．
「宗教戦争は終った．旧教徒，ユグノーにかかわらずルーダンを守るため尽くしてほしい」と大衆に呼びかけるグランディエは，ルーダンの政治的策謀でサタニストの烙印を捺され，火刑に処される．支配階層と宗教者の劇化は，熱狂の乱痴気騒ぎである．彼らの高尚なる「自治」に，あるべき聖性や敬虔さは認められない．しかし，いかがわしい人間性の暴露の鼓動は鮮烈で，寛容をもって眺めることができる．新教徒と旧教徒の和解をすすめようとするグランディエを追い込むため，悪魔憑きを装う修道女の集団ヒステリー，その狂態には一見の価値がある．
現在鑑賞できるメディアでは，本作は彩度があまりに低く，不鮮明な印象が先に立つことが残念．2008年にワーナー・ブラザーズからノーカット版のDVDが販売される予定だったが，宗教的戒律の裏に潜む性の不道徳，神を冒涜する呪詛を直接的に描いた内容が危惧されたために発売中止となった．同社から1991年3月に出された「109分版」VHSもすでに廃盤．ネット上で署名運動が行われた．このキャンペーンは最終的に成功し，BFIによって1971年のイギリス版X指定カットのDVDがリリースされた．
本作の暴力と性的な内容は，公開前も後も多くの論争を巻き起こした．1970年11月のデイリー・レコード紙の記事によると，5人の若い女優がエキストラの男性50人に性的暴行を受けながら裸で歩かされたと告発し，俳優協会が制作中に彼らの代表を立ち会わせるよう要求する事態に発展した．修道女たちが等身大のキリストのイコンを壊し，狂喜乱舞する重要なシーンは，映画からカットされ消滅した．この映像は，その後ラッセルの制作ドキュメンタリーで見ることができ，その後ノーカットのDVDリリースにも収録された．
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原題： THE DEVILS
監督： ケン・ラッセル
115分／イギリス／1971年
© 1971 Russo Productions
