■「アウトレイジ」北野武

アウトレイジ [Blu-ray]

 関東一円に勢力を張る巨大暴力団組織・山王会組長の関内のもとに,一門の幹部が集結していた.その席上,関内は若頭の加藤に,直参である池元組の組長・池元と直系ではない村瀬組との蜜月関係について苦言を呈す.そして,加藤から村瀬組を締め付けるよう命令された池元は,その配下の大友組組長・大友に“厄介な”仕事を任せる.こうして壮絶な権力闘争が幕を開けた….

 つての「キタノ・ブルー」に染められた寡黙なニヒリズムという美学は,影も形もない.大量の怒号「この野郎」「馬鹿野郎」に,鬱勃とした淑やかさは吹き消されている.代わりにかしがましいのは,裏切り,欺瞞,暴力の刹那的な炸裂と連鎖.

 偽悪的な饒舌で笑壺に入るのは,北野武の一つの原点であったことを嫌でも思い出させる.極悪非道の群像劇は,共食いの構図でも狡猾に先を見越した才覚をもつ智者,功名心をくすぐられ捨駒となる凡夫をはっきり区分している.連珠となって走駆する黒塗りのセルシオは,さながら連発される弾丸.

 “ワル”の面々は椎名桔平小日向文世三浦友和の意外性よりも,石橋蓮司の絶妙の呼吸,これまでのイメージを一新するような加瀬亮の演技が実に印象深い.狂気の中にある確かなインテリジェンスをこのお膳立てで発揮できた加瀬には,素直に脱帽.

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原題: アウトレイジ

監督: 北野武

109分/日本/2010年

© 2010『アウトレイジ』製作委員会