『ミシマ:ア・ライフ・イン・フォー・チャプターズ』は,日本とアメリカ合衆国の合作映画.三島由紀夫の生涯とその文学作品を題材にした伝記風の芸術映画. 1985年にアメリカ合衆国などで公開されたが,現在も日本では未公開である…. |
三島由紀夫の死に通じる4幕が,有機的なアートとなっていることが圧巻の作品.兵役を忌避した惰弱な自分を恥じ,ボディビルや剣道を通じて肉体改造を図った男の劣等感.それが典雅な古典に親しんだ美意識の根底にある.『金閣寺』『奔馬』(『豊饒の海』第2巻)『鏡子の家』を巧みに援用,映像化することで,若き日の三島が憧憬し続けたと思しきナルシシズムが充満している.
フィリップ・グラス(Philip Glass)による簡素で禁欲的なミニマルは,三島の強靭で深遠な精神性を囁く.緒形拳も素晴らしい.役者としての肉体改造で三島のフィジカルを追跡したことや,顔立ちが必ずしも似てはいないこと以前に,”三島由紀夫”を体現していると唸らせる存在感で魅せる.1969年5月13日に開かれた全共闘との討論会の1シーンは,アンフォルメルなゼリー状の未来に期待しない,と吐露した三島本人ときれいに重なる.
私的民兵組織「楯の会」を率いて,ナショナリズムに殉難するまでのシークエンスに,3つの文学的劇中劇が交互に絡む.4幕の最後は,三島自身の最期というドラマツルギー.ポール・シュレイダー(Paul Schrader)やフランシス・フォード・コッポラ(Francis Ford Coppola)が,三島文学を敬愛する心意気は,本作の有機的なコラージュに反映されている.
政治的行為にも昇華されうる稀有な文学者の自他への愛憎を,ハリウッドが扱って陳腐化を免れた例外的な作品.三島の遺族の了解が得られず,いまだDVDやブルーレイといった記憶媒体で国内流通が許されていない.映画単体の水準だけを見るなら,人目に触れてはならない理由はどこにもない.
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原題: MISHIMA - A LIFE IN FOUR CHAPTERS
監督: ポール・シュレイダー
120分/アメリカ=日本/1985年
© 1985 Zoetrope Studios, et al.