日本暴力団抗争史上,最も多くの血を流した“広島やくざ戦争"の渦中にいた元・美能組々長・美能幸三の獄中での手記をもとに,作家・飯干晃一が描いた実録ノンフィクションを映画化.昭和二十二年,敗戦直後の広島県呉市を舞台に,背信,復讐,憎悪や欲望が渦巻く組織の中,やくざの垢にどっぷり浸かった主人公・広能昌三はじめ若い組員たちの苦悩や悲しみ,怒りを描きながら,実際に起こった抗争事件を生々しく再現していく…. |
日本暴力団抗争史上で最も凄惨であったという終戦直後の「広島抗争」.東映社長の岡田茂も広島出身であり,時代劇の任侠映画が斜陽に陥っている映画界に一石を投じるつもりで製作したのだという.義理人情の任侠道ではなく,これからは抗争と裏切りの実録をもって,奸雄が評価される時代を作る.岡田の宣言した「東映バーバリズム」の野心を,ズームレンズをつけたミッチェル・ズームが丹念に拾い上げて炎上させる.
襲撃の応酬の刹那,男たちのぎらつく眼光,憤怒の形相から繰り出される広島弁.深作欣二の指示した大胆かつ周到なカメラワークが素晴らしい.博徒・岡組と村上組,土岡組と山村組.広島湾を臨む広島市と呉市間で繰り広げられた,血で血を洗う抗争は,甘言・泣落とし・讒謗・懐柔などあらゆる手段を講じてなされている.
「美能組」元組長の700枚にわたる獄中手記をもとにした本作は,はじめ混沌の広島のキノコ雲を背景に,闇市での殺人と暴行を序奏とする.社会悪が蔓延るには無残な土地だが,それゆえ無法破りの土壌となってしまったことは否めない.彼らを英雄視する風潮は,本作の成功とともにそれなりの勢いをみせた.美化の対象とするには,当然に適格性を欠く面妖なバガボンドら.しかし,蓋をするには眩いほどの渇望の持主が本作には躍動している.
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原題: 仁義なき戦い
監督: 深作欣二
99分/日本/1973年
© 1973 東映