▼『法と社会』碧海純一

法と社会―新しい法学入門 (中公新書 125)

 社会においては個人の行動を規制し,秩序を維持していくことが不可欠であるが,これは主として社会化および社会統制という過程を通じて行なわれる.本書は,法を社会統制のための特殊な技術とみる立場からその社会的機能を論じ,法と他の文化領域との関係を明らかにする.古代社会や未開社会における社会秩序の問題にも考慮がはらわれており,従来の書とはやや異なった平易な法学入門である――.

 学や芸術の至高性を認めつつも,法の発展に寄与する個人の義務は,闘争で得られる権利と一対である.したがって,権利のための闘争は,品格ある雅(みやび)な歌となり,己の権利を明らかにすることは,責任ある人間のすべての義務である――ルドルフ・V.イェーリング(Rudolf von Jhering)が『権利のための闘争』で紐解き宣言した「法の目標は平和であり,それに達する手段は闘争である」.これも法の原理の一つ.

 人々の行為を規律している規範を欧米と西欧の法体系から論じたポール・ビノグラドフ(Paul Gavrilovich Vinogradoff)の『法における常識』も優れた入門書だった.本書は,文化の一部としての法は,社会の発展から制約を受けるもので,集団の秩序と統制(社会統制)を重んじる社会装置とみなしている.個人の利益の追求は,法の生成と発展に貢献し,やがて国家共同体の利益に結びつく.

 法学概論のためのさらなる「入門書」として読み継がれるべき名著であるが,初版から四半世紀近くが流れた1990年,第37版への後記も2つの点から重要.「社会統制」と「社会統合」の実質概念の整理.もう一点は,人文科学領域の影響による法理論の進化論的立場.近刊ではあるが,トーマス・ライザー(Thomas Raiser)の『法社会学の基礎理論』第五版「法と社会(法社会学総説)」の最終章で,進化論的な法理論について論考が割かれている.

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原題: 法と社会―新しい法学入門

著者: 碧海純一

ISBN: 4121001257

© 1967 中央公論社