▼『悪口学校』リチャード・シェリダン

悪口学校 (岩波文庫)

 ふたこと目には道徳を説くが裏では社交界を操る偽善家の兄ジョーゼフ.財産を叩き売っては放蕩三昧の弟チャールズ.インド帰りの叔父オリヴァーは兄弟の本心をためそうと,兄には貧者,弟には金貸しを装って現われるが…巧妙な筋立てと場面が展開してゆく.シェイクスピア劇と人気を競う18世紀の劇作家シェリダンの風習喜劇――.

 弁家で,ホイッグ党員でもあったリチャード・シェリダン(Richard Brinsley Sheridan)による,イギリス風習喜劇の伝統を代表する傑作である.「でっちあげた噂話のお広目屋」「悪口(スキャンダル)というにせ金づくり」「人の評判の金貨削り」.兄ジョーゼフは偽善的人物,弟チャールズは浪費家だが気立てが好い.そのようなサーフィス兄弟の後見人ピーターの困惑が加わり,醜聞は混迷を深めていく.

 父はダブリンの王立劇場の俳優兼監督,母は作家という家柄に生まれたシェリダンは,醜聞や中傷の渦巻く有閑階級の偽善を,本書でシニカルに描いている.当時の俳優・芸能関係者の地位は極めて低く,シェリダンは上流階級への反感を抱いていた.本書は舞台化され,ロンドンでの上演回数は,シェイクスピア劇「オセロー」と並ぶほどの人気を誇った.シェリダンは,1616年に没したウィリアム・シェイクスピア(William Shakespeare)とは,ちょうど200年の時間差がある中で活躍している.

 荒唐無稽な風習喜劇で若き劇作家の評判を確立したシェリダンだが,創作はほぼ青年時代に限られる.コーンウォール公Duke of Cornwall)の歳入役,イギリス海軍主計長官および枢密顧問官の役職を務め,その後半生は機知と風刺に富んだ喜劇ではなく,政治家として名声を高めたのである.もうひとつの代表作『恋がたき』には,修辞学的に有名な「マラプロピズム」(喜劇的効果のある言い間違い)が出てくる.本書は,そのような技巧に頼ってはいない.どちらが読者に受け入れられるかは,完全に好みの問題となっている.

++++++++++++++++++++++++++++++

Title: THE SCHOOL FOR SCANDAL

Author: Richard Brinsley Sheridan

ISBN: 4003226011

© 1981 岩波書店