■「アイ・アム・レジェンド」フランシス・ローレンス

　2012年，人類が死滅してしまった地球でたった1人，有能な科学者のロバート・ネビルだけが生き残る．彼は究極の孤独と闘いながら，愛犬サムとともにほかの生存者の存在を信じて無線で交信を続ける．太陽の光が消え去ると，いっせいにうごめき出す不気味な影，“ダーク・シーカーズ”の脅威と闘いながら，途切れそうになる希望をたぐり続ける日々．そんなある日，ネビルは，ある驚くべき事実に気づく…．

　ウィル・スミス（Will Smith）は，独立した個性よりも，共同により自己の持ち味を増幅するタイプの役者である．必然的にバディ・ムービーが様になるが，半面でいうと，スミスの繊細さがそのようなスタイルを招いたともいえる．その意味で，本作の前半部は魅力的だ．癌の画期的治療薬の副作用が暴走，66億人が絶滅して“ダーク・シーカーズ”と化した世界．人外の者は咬傷で感染するが，日光を浴びると死亡するという吸血鬼の体質．

　たった独り生き残ったネビルは，愛犬サムとの信頼関係だけを支えに孤独に耐えている．野生動物が侵入する廃墟マンハッタンを突き抜ける，真っ赤なマスタング．セントラル・パークでの自給自足．摩天楼に向って打ちっ放しのゴルフ・ショット．文明を持て余すネビルの侘しさを，スミスはセンシティブに体現している．マネキンを「口説き」の対象に見立てた寂寥感には，印象深いものがある．ところが映画後半，生存者のコロニーがあると伝える母子が登場すると，途端に陳腐化した展開に成り下がってしまう．ダーク・シーカーズの理性と知性を侮るネビルが，死闘の末に生死を脅かされる終末観が，拡散してしまったのである．

　ハリウッドの悪しきセオリーをなぞってしまったことは，残念なところ．人間の駆逐されたNYの風景は，2006年8月から2007年3月にかけ5番街で200日の区画封鎖を行い敢行された．ブルックリン橋の混乱には現役の米軍兵士と警察が動員され，この場面に巨額の製作費を投入している．本作は，1990年にリドリー・スコット（Ridley Scott）監督，アーノルド・シュワルツェネッガー（Arnold Alois Schwarzenegger）主演での企画があったが，費用面を理由に実現はしなかった．

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ウィル・スミス

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原題： I AM LEGEND

監督：フランシス・ローレンス

100分／アメリカ／2007年