■「華麗なる一族」山本薩夫

華麗なる一族 [DVD]

 関西金融界の雄,万俵大介は厳然たる家父長制で一族を取り仕切り,その勢力を広げようと腐心し続けている.しかし,長男の鉄平に対してだけは,その出生の疑惑にこだわりを持ち続けていた.ある日,その鉄平が経営者として致命的なミスを冒してしまう….

 風堂々とした香気に充ちた,211分.まったく間延びせず弛みのない展開は,山崎豊子の原作を見事に捌く山本薩夫の手腕による.70年代,日活と大映が低迷期に入り,黒澤明も一時退くなど,邦画界は斜陽期に突入していた.戦後も四半世紀が経過し,懐古主義と新たな潮流のせめぎ合いにあって,松本清張砂の器』,小松左京日本沈没』,石川達三『青春の蹉跌』などを原作とする映画が盛り上がった.邦画の新たなラインナップとして,優れた小説との協働が燦然と輝いた時代があったのである.

 預金高十位の阪神銀行の頭取・万俵大介率いる万俵財閥.大介には4人の実子がいる.最大傘下企業・阪神特殊鋼の専務を務める長男・鉄平,阪神銀行本店で融資課長の職にある次男・銀平,大蔵省主計局次長・美馬中と政略結婚した長女・一子,見合い結婚を渋る次女・一子.華族の血をひく大介の正妻・寧子は,実務的にはまったくの無能.一方,万俵家の家庭教師兼執事を務める高須相子は,大介の寵愛を受け,妾でありながら万俵家での政治力を恣にしている.

 時下,金融再編の機が到来し,大蔵大臣から「預金高十位以下の銀行は合併の対象」との意向を聞いた大介は,生き残りをかけ,他行との合併を模索し始める.同じ頃,長男の鉄平は,阪神銀行の融資を受け,長年の夢であった自社の高炉建設に着手する.政財界,官僚をも呑み込んだ醜い権謀術数は,キャスティングボートを握るため,因果を無視するほどの権勢欲の応酬を繰り返す.本作のモデルは,阪神銀行神戸銀行,万俵家=神戸の岡崎財閥,帝国製鉄=新日本製鐵,大同銀行=協和銀行であるといわれている.神戸銀行は1973年に太陽銀行と合併し,太陽神戸銀行となったが,後に三井住友銀行に収まった.

 現実に,吸収と合併が繰り返されて金融機関は胎動を続けているのである.「華麗」といいながらも,先代が創立した阪神銀行を全国第10位の都市銀行に押し上げた万俵大介は,生粋の叩き上げであり,毛並みの良さは持っていない.没落したとはいえ公家・嵯峨子爵家と閨閥を築いても,生来的な泥臭さを拭えはしない.山崎豊子の設定したアナグラムを,佐分利信の圧倒的貫禄,京マチ子の爛れた妖艶さ,目黒裕樹と田宮二郎の猛々しい野心などがきっちり実写化した.この作品に関しては,仲代達矢は若干浮いてしまった感がある.

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原題: 華麗なる一族

監督: 山本薩夫

211分/日本/1974年

© 1974 芸苑社