■「きみに読む物語」ニック・カサヴェテス

きみに読む物語 [Blu-ray]

 とある療養施設にひとり暮らす初老の女性.老いてこそいるがたたずまいも美しく過ごしている.しかし,彼女は情熱に溢れた若い時代の想い出をすべて失ってしまっている.そんな彼女のもとへ定期的に通う初老の男.デュークと名乗るその男は,物語を少しずつ読み聞かせている.語られるのは1940年代のアメリカ南部の小さな町の,きらめくような夏の物語….

 愛ブームも,かつての勢いはさすがに衰えたようだ.白血病の少女や韓国のメロドラマ,電車内での出会いを恋愛に発展させようと奮闘したオタクの物語など,一時は食傷気味になるほど,この手の話が巷に溢れた.本作は,ブーム後期に登場し,やはり国内で一部の層に熱狂的に受け入れられた.男女が障害を乗り越え,永遠の愛を獲得する紋切型の物語.老人ホームに入所する老婦人に,足繁く通う老男性が物語の読み聞かせを始める――.

 南部の大都市チャールストンの裕福な家庭に育った17歳のアリーは,家族と一夏を過ごすため,豊かな自然のあるノース・カロライナの町シーブルックへやってきた.地元の材木業の青年ノアは,ある晩アリーを見かけ一目惚れ.強引にデートの約束を取り付け,必死にかき口説く.彼を歯牙にもかけなかったアリーは,ノアの熱意にほだされる形で交際を始めた.若い2人は事あるごとに衝突しながらも,将来を誓い合う.

 2人の交際をアリーの両親は認めず,父母の願い通りアリーはニューヨークの女子大学へ進み,ノアはシーブルックで働き続けるほかはなかった.認知症は,基本的には不可逆性の病である.そのことに甘い幻想を抱かせず,安易に記憶を取り戻させなかったことが良い.思い出は喪っても,好悪の感情は変わらない.恋愛映画としてあまりに王道過ぎるシナリオは,真っ向勝負で男女の愛情の紡ぎ方の理想を恥ずかしげもなく説く.ほとんどの人の身には起こり得ないほどの不滅性.それは,すべての人が潜在的に羨望しているものでもある.

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原題: THE NOTEBOOK

監督: ニック・カサヴェテス

123分/アメリカ/2004年

© 2004 New Line Cinema,Gran Via