▼『自由と規律』池田潔

自由と規律: イギリスの学校生活 (岩波新書)

 ケンブリッジ,オックスフォードの両大学は,英国型紳士修業と結びついて世界的に有名だが,あまり知られていないその前過程のパブリック・スクールこそ,イギリス人の性格形成に基本的な重要性をもっている.若き日をそこに学んだ著者は,自由の精神が厳格な規律の中で見事に育くまれてゆく教育システムを,体験を通して興味深く描く――.

 井財閥の最高責任者で大蔵大臣兼商工大臣,枢密顧問官を務めた池田成彬の子息であった池田潔は,戦前イギリスのパブリックスクール(リース・スクール)からケンブリッジ大学,その後ドイツのハイデルベルグ大学で学んだ.

 ノブレス・オブリージュ(高貴なる者の負うべき義務)が,イギリスの指導的立場となる上流階級の子弟に植え付けられる過程に,池田は立ち会っていた.規律なき自由は放縦につながり,自由なき規律は専制につながるという.英国流の民主主義精神の涵養には,全寮制で物質的に節制を強いる生活,文武両道に励むことが不可欠とされていた.

ある特定の条件にある特定の人間が,ある行為をして善いか悪いかはすでに決まっていて,好む好まないを問わずその人間をしてこの決定に服せめる力が規律である.そしてすべての規律には,これを作る人間と守る人間があり,規律を守るべき人間がその是非を論ずることは許されないのである

 「最も規律があるところに自由があり,最も自由なところに規律がある」.まさに至言.本書は教育論であり,コモンセンスの感覚を磨く伝統のあり方を述べる書でもある.古めかしい文言で費やされる厳格さこそ,軽佻浮薄が蔓延する現代への解毒剤と理解されるべきものである.

++++++++++++++++++++++++++++++

原題: 自由と規律―イギリスの学校生活

著者: 池田潔

ISBN: 4004121418

© 1964 岩波書店