▼『アイドル、冴木洋子の生涯』松野大介

アイドル、冴木洋子の生涯

 CMタレントとしてスタート,ヒット曲の連発,ドラマのヒロインへの大抜擢.しかし,すべてを手に入れた瞬間,彼女のもう一つのドラマが大きく動き始めた.CMスポンサーの社長との悪夢のような一夜,ストーカーのファン,俳優やJリーガーとの恋と破局.マスコミのバッシング,所属事務所の裏切り….次々に起こる悲劇に洋子の心と体は壊れていく.『芸人失格』に続き松野大介が挑む芸能界の真実――.

 で千年,山で千年棲んだ蛇は竜になるという.自分に課せられた役割は「偶像」そのものであることを呑み込み,若さと可愛らしさを精一杯演じる人々=アイドルがいる.偶像を求められる見世物小屋に立ち続ける当人たちの心の闇は,同じ立場にいる者でなければ解らない.彼/彼女らは芸能界での定位置を探し続ける.そのためには,いつかアイドルを“卒業”することも視野に入れておく必要がある.それを早期に気取られぬよう,細心の注意を払っている.

 アイドルに憧れた1人の少女は,右も左も分からず芸能界に飛び込んだ.自分も彼女たちのようにスポットライトの下で生きるのだ.芸名・冴木洋子を名乗り,CMタレント,歌のヒット,ドラマのヒロインの抜擢.すべては順調だった.しかし,恋愛スキャンダル,事務所の裏切りに困憊する洋子は,心を蝕まれていく.

 著者は一時,お笑いコンビを組んでいた.相方は現在の中山秀征である.中山はバラエティに活動拠点を置くことに成功し,著者は表舞台から消えた.軽薄さを売りにするアイドルたちを,コケにする風潮がいつしか自然なものとなったが,業界の要請に鋳型のように合わせてきた"偶像"の技巧はすでに一芸の域に達している.必要ならば,すすんでバカを買って出る.それを嗤う人が,「よき」視聴者と把握されるのだろう.適者生存の理では,最も変化に適応できるものが最も強い.

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原題: アイドル、冴木洋子の生涯

著者: 松野大介

ISBN: 4877282955

© 1999 幻冬舎