▼『天体による永遠』オーギュスト・ブランキ

天体による永遠 (岩波文庫)

 19世紀稀代の革命家ブランキ(1805‐1881)は,パリ・コミューン勃発の前日に逮捕される.トーロー要塞幽閉中に書かれた最後の著作が本書である.それは革命論ではなく,宇宙の無限から人間を考察したものだった.想像力を広大な宇宙に飛翔させ,そこでブランキが見たものは?ベンヤミンを震撼させたペシミズムの深淵――.

 ルターニュ半島の岩礁に築かれたトーロー要塞に幽閉されたルイ・オーギュスト・ブランキ(Louis Auguste Blanqui)は,19世紀パリの民衆蜂起と革命のほとんどすべてに関与した革命家である.王政復古期のカルボナリスム.1830年の7月革命.1848年の2月革命.祖国の危機およびパリ・コミューン前夜における諸事件.7月王政の反体制運動を興したブランキは,共和派の「人民の友協会」が弾圧された法廷で,雄弁に体制を批判し,耳目を集めた.

 少数精鋭の秘密結社による武装蜂起の手法は,若手の共和派の囚人たちを刺激,ブランキを師と仰ぐフランス社会主義者の党派(ブランキ派)が形成される.執拗な武装蜂起と度重なる逮捕・投獄により,ブランキは1880年恩赦まで43年と2か月もの間獄中(とそれに類する)生活を送っている.トーロー要塞に陽光は全く差し込まず,鉄格子のはまった窓と上部の明り取りを通して,中庭側の光が漏れてくるだけだったという.

 19世紀フランスのあらゆる体制下で革命思想の指導力を保ったブランキは,ジャコバン主義と平等主義の伝統を受け継いだ稀代の巌窟王であった.本書は,幽閉中に書かれた最後の著作でありながら,ブランキの政治的な業績,革命論に及ばぬ「周辺的な雑記」と研究家の間で黙殺的に扱われてきた.宇宙の無限からメランコリックに人間を考察する論旨に,ヴァルター・ベンヤミン(Walter Bendix Schönflies Benjamin)は衝撃を受けている.300年前の赤錆びた12本の鉄格子に囲まれ,寒気と湿気の充満する鬱勃とした空間で,ブランキは類推法だけを頼りにこれを書き上げたのである.

こうして,それぞれの惑星のお蔭で,すべての人間は,自分の人生と全く同じ人生を送っている数限りない分身を,この宇宙の広がりの中に持つことになる.彼は現在の年齢の自己だけでなく,彼のすべての年齢時における別の自己という形でも,無限かつ永遠なのである.彼は現在の一瞬ごとに,何十億という誕生をしつつある瓜二つの自分,死んでゆく自分,また誕生から死までの生涯の一瞬ごとに並んでいるすべての年齢の自分を同時に持つのである

 時間的・空間的に無限であるとベンヤミンが前提する宇宙観では,内部の恒星系群はおよそ100の元素のみによって構成されている.そのような有限の元素で構成されている数多の天体と,そこに発生する人間と営為のパターンは,無限のもとに支配される有限の存在.したがって,過去・現在・未来にわたり,現在の地球と「鏡合わせ」の天体が無数に存在していることになる.まさに永劫回帰の観念.スタニスワフ・レム(Stanisław Lem)の異世界の住人との意思疎通の“真空”に通じる真理,独創的な認識からなる形而上学的な産物に近い.

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Title: L'ÉTERNITÉ PAR LES ASTRES

Author: Louis Auguste Blanqui

ISBN: 9784003422519

© 2012 岩波書店