■「目撃」クリント・イーストウッド

目撃(Blu-ray Disc)

 世界的な腕を持つ盗みのプロが,ある夜,忍び込んだ大富豪邸で衝撃的な事件に遭遇.国家を揺るがす大事件を目撃してしまう.そして彼自身の命だけでなく愛する娘にまで危機が迫ったとき,彼は巨大な敵を相手にひとり戦いを決意する….

 棒に身をやつしたクリント・イーストウッド(Clint Eastwood)が,ABSOLUTE POWER(絶対的な権力)を振う大統領=ジーン・ハックマン(Gene Hackman)に徒手空拳で挑む.このプロットには,イーストウッドがこだわり続けた西部劇における「アウトローが貫く正義」が色濃く認められる.40本目の出演作で,17本目の監督作にあたるが,このあたりの作品までは,饒舌なまでに,西部劇スタイルを現代の素材に生かそうとした努力が感じられる.

 ヴァージニア州の高級住宅地.名うての泥棒ルーサー・ホイットニーは,合衆国大統領の後援者ウォルター・サリヴァンの邸宅に忍び込んだ.寝室にある金庫室に隠された貴金属をいただいて邸宅を後にしようとしたその時,サリヴァンの妻クリスティが愛人を伴って帰宅.隠し扉の中でホイットニーは息を殺した.愛人は,現職大統領アラン・リッチモンドであった.戯れるリッチモンドとクリスティ.だが,酔った勢いで暴力を振るうリッチモンドに,クリスティがナイフで反撃.異変を察知したシークレット・サービスによりクリスティは射殺された.大統領補佐官グロリアは,2人に現場の証拠隠滅を命じ,事件の揉み消しを図った.

 陳腐な展開が続く.悪が巨悪に立ち向かう過程で見せる正義感,人間性は,安直すぎるほど予想も容易.サスペンスでありながら,ラストへ向けた疾駆感も乏しい.それでいて,凡庸な作品という印象から抜け出ているのは,演出の確かさにある.他者には存在を教えることのない泥棒ホイットニーも,唯一の家族である娘ケイトには存在をアピールする.写真と冷蔵庫のエピソードは,地味であるが親心の堅実さを印象付ける.ハックマンの堂々とした悪徳大統領ぶりは見事であり,支援者の政治家夫妻は出てきても,ファーストレディは影も見せない.ホイットニーを追う刑事のキャラクターづけも,過不足ないテイストに落ち着いている.

 このように,人物の性格付けと描き分けが巧妙であることによって,物語を動かす歯車を妥当に駆動させていることが分かる.その代り,すべてが無難にまとまり,僅かなインパクトで終結に導かれる「器の小ささ」に落ち着いたことは否めない.ただし,エンドロールで流れるイーストウッド作曲「ケイトのテーマ」は名曲.「パーフェクト・ワールド」(1993)や「グラン・トリノ」(2007)を彷彿とさせるアイロニカルな響きが,余韻を増幅させる.

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原題: ABSOLUTE POWER

監督: クリント・イーストウッド

121分/アメリカ/1997年

© 1997 Castle Rock Entertainment,Malpaso Productions