■「僕はラジオ」マイケル・トーリン

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 フットボール部のコーチ,ジョーンズは,グラウンドの傍らでよく見かける知的障害を抱える青年にチームの世話係を頼む.ジョーンズは,音楽が好きで片時もラジオを手放さないその青年に“ラジオ”というニックネームを付け,試合や学校の授業にも参加させる.自身の明るさと純粋さで,たちまち人気者になる“ラジオ”.しかし,そんな彼の存在を快く思わない人たちが….

 知と無理解と無関心が,あらゆる悪徳を醸成する肥料となる.そのことに気付かせ,いわゆる「障害者」と「健常者」の括りで,人間性を含めた評価が社会的に分断されることの不毛さを,正攻法で描く.1976年,サウスカロライナ州・アンダーソンにあるハナ高校.アメフトチームのコーチを務めるジョーンズは,練習場の周囲をうろつく一人の黒人青年のことが気にかかる.

 知的障害をもつ青年は,ラジオを片時も離さない.チームメイトの悪質な悪戯に嵌められた青年を救出したジョーンズは,彼に「ラジオ」とニックネームをつけ,チームに迎え入れて雑用の手伝いをしてくれるよう頼んだ.ラジオは,戸惑いながらもチームに入り込んでいく.黒人に対する差別が激しい南部の高校で,黒人であることに加え障害者でもあるラジオが活躍したのは事実である.

 1976年から数え,現在50代に入ったラジオは,ハナ高校のアメフトチーム名誉コーチとして,何世代もの学生や教師から尊敬を集める存在であるという.スポーツ専門雑誌スポーツ・イラストレイテッドが1996年にラジオの物語を記事にしたところ,大反響で映画化される運びとなった.社会参加が誰にとっても特別なことでなく,ノーマルなものであることが本来の社会のあり方である.正当なメッセージを,ラジオ個人史に乗せ描く手法に非の打ちどころはない.

 ただし,アンダーソンの地域と高校の取り組みが評価され,関心を集めるまで20年の歳月がかかっていることに若干のひっかかりを感じる.ジョーンズ役で優しさと厳しさを併せ持つ瞳のエド・ハリス(Ed Harris)はいい味を出しているが,ラジオ役のキューバ・グッディングJr(Cuba Gooding Jr.)は少々,作り過ぎ.

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原題: RADIO

監督: マイケル・トーリン

109分/アメリカ/2003年

© 2003 Revolution Studios,Tollin/Robbins Productions