■「WE ARE X」スティーヴン・キジャック

WE ARE X Blu-ray スタンダード・エディション

 「Forever love」をはじめ,数多くのヒット曲を発表,アメリカにも進出し世界的なロックバンドとなったX JAPAN.世界への挑戦,メンバーの脱退やバンドの解散,HIDEとTAIJIの死,そしてToshlの洗脳など,いくつもの悲劇,騒動を経たX JAPAN は,2007年に再結成を遂げる.その後,バンドは精力的な活動を行い,2014年にはアメリカのマディソン・スクエア・ガーデンでの公演を成功させる.映画は,その公演の様子や舞台裏を追う….

 作のオリジナル・サウンド・トラックは,日本で全国公開された2017年3月3日にソニー・ミュージックからリリースされている.30年前からX(1992年からX JAPAN)のファンであれば,およそ信じがたい決定だったはずだ.1988年に1作目のアルバム『Vanishing Vision』は1万枚という異例の初回プレスを売り上げ,Xとメジャー契約を結んだのはCBSソニーだったが,リーダーのYOSHIKIは同社への不信と嫌悪感を隠さなかった.

 インディーズ時代ライブの過激なパフォーマンスが知れ渡り,いくつものライブハウスは出入り禁止.関東の「粗大ゴミバンド」とレッテルを貼られたほど,かつてのXは素行が悪かった.YOSHIKIの来歴を中心としたバンドの苦悩や葛藤を見事に映像化した本作のOSTが,古巣ソニーから出されたことに,何より感動を覚えた人も少なくないのではないか.YOSHIKIが11歳の頃に父親は自殺,YOSHIKIとは幼なじみでX JAPANをともに結成したToshlの洗脳騒動,信頼していたギタリストHIDEの突然の死,それに続くベーシストTAIJIの脱退と死――.

 悲しみを振り切るように作曲と演奏にのめり込むYOSHIKIが,まとわりつく死の影を感じ,常にそれに怯えていることを率直に自分の言葉で語る.X JAPANアメリカでは「プログレ・メタル」とカテゴライズされることもあるが,彼らの音楽は英米圏で芳しい評価を得てこなかった.今は,マリリン・マンソンMarilyn Manson)やジーン・シモンズ(Gene Simmons),マーティ・フリードマンMarty Friedman)から,YOSHIKIの音楽性を高く評価する言葉が聞かれる.

 彼の作り出す音楽は,繊細ながら独特の力強さがあり,年を経るごとに深みを増している.ドキュメンタリー映画として陥りがちなバイアスもない.とても良質な作品なのだが,Toshlの成長に若干のフォーカスがあってもよかったかもしれない.啓発セミナーの洗脳に苦しみ放浪の日々を送った彼は,老人ホーム慰問など地道な歌手活動で,自分なりに真実を探り当てようとしていたのだ.再結成後の彼の歌声にも,以前にはなかった深みと美しさが備わり,本作のエンディング・テーマ《La Venus》(サントラTrack.1収録)は,讃美歌のように聞こえる.

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原題: WE ARE X

監督: スティーヴン・キジャック

96分/アメリカ/2016年

© 2016 PASSION PICTURES LTD.