| 1968年，５月革命前夜のパリ．アメリカ人留学生マシューは，映画フリークが連日集うシネマテークで，とびきりクールな双子の姉弟・イザベルとテオに出会い，親しくなる．誘われるままに双子のアパルトマンに転がり込んだマシューを待っていたのは，近親相姦的な親密さを漂わせる姉弟と部屋にこもりきって過ごす退廃的な毎日だった．そして，映画クイズに興じるうちに，ゲームの代償として，テオの目の前で，イザベルと愛し合うことを強要されたマシューは…． |
映画への偏執愛．夢見る若者3人にベルナルド・ベルトルッチ（Bernardo Bertolucci）が没入させる1968年．シネフィルは映画館最前列に陣取り，アパルトマンに引きこもり，デカダンな日々を享楽．扉と窓を一枚隔てた外界では，既成概念と社会制度に異議を唱える若者が闊歩している．ベトナム北爆をきっかけに起きた学生紛争は，ジミ・ヘンドリックス（Jimi Hendrix）《サード・ストーン・フロム・ザ・サン》を背景に，自由や革命の狂熱に浮かされていた活力．
プチブルの双子姉弟イザベルとテオと一緒にアパルトマンに閉じこもるシネマフリークのマシュー．3人が睦み合う触媒は，ド＝ゴール政権解散，ストラスブール大学で起きた民主化学生運動，ソルボンヌ大学の自治と民主化の運動，いずれでもない．ジャン＝リュック・ゴダール（Jean-Luc Godard）のフィルムの反復的な引用が主張するのは，1930－50年代にかけてのヌーベルヴァーグへの憧憬にほかならない．双子の姉イザベルは，長髪で瑞々しい肢体のエヴァ・グリーン（Eva Gaëlle Green）．弟テオは，ゴダ－ルの再来といわれたフィリップ・ガレル（Philippe Garrel）の息子ルイ・ガレル （Louis Garrel）．
生まれたのは1959年......パリ・シャンゼリゼ．産声は......『ニューヨーク・ヘラルド・トリビューン』！
姉弟の妖しい美しさが，アメリカからの客人マシューを幻惑する．1968年当時，このイザベルが9歳であるはずがない．シャルル・ド・ゴール(harles André Joseph Pierre-Marie de Gaulle)がフランス初代大統領となり，西ドイツザールラント州で使用される通貨がフランス・フランからドイツ・マルクになるとともに，ヌーベルヴァーグの豊作年が自己の誕生年と認識するマジカリズム．
淫靡な遊戯を父に知られたら自殺を辞さないと考えたイザベルだが，夢幻の三角関係に急激な亀裂を入れる外界からの投石――革命の暴動――に，弟もろとも身を投じる．彼らとはぐれたマシューは，フランスの地に長く留まることはなかっただろう．精神的な成熟が未分化であった若者に変革を促す総括は，社会運動の目覚めで開始されている．ゴダールへのオマージュから，ベルトルッチの懐古主義が窺われる作品である．
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原題： THE DREAMERS
監督： ベルナルド・ベルトルッチ
117分／イギリス＝フランス＝イタリア／2003年
© 2003 NIPPON HERALD FILMS, Inc.
