▼『革命か反抗か』アルベール・カミュ,ジャン=ポール・サルトル

革命か反抗か―カミュ=サルトル論争―(新潮文庫)

 歴史を絶対視するマルクス主義を批判し,暴力革命を否定し,人間性を侵すすべてのものに"ノン"と言い続けることを説いたカミュ.彼の長編評論『反抗的人間』の発表をきっかけにして起きたサルトルとの激しい論争を全文収録.カミュサルトル二人の思想の相違点を知るとともに,現代における人間の尊厳,自由について考えさせる必読の書.ほかにF・ジャンソンの二論文を収める――.

 史主義に美徳を付与しようとするマルクス主義は,革命的闘争を否定しない.そのように評す前提で,左翼の非人間性を批判したアルベール・カミュAlbert Camus)の評論「反抗的人間」.これに対するジャン=ポール・サルトル(Jean-Paul Charles Aymard Sartre)の論詰と舌鋒は鋭い.「作家全国委員会」の一員としてレジスタンス運動のためパリに潜入した頃のカミュとはもはや別人,と断じた.

 カミュは『異邦人』『シーシュポスの神話』で不条理を,『ペスト』で反抗の精神を描いてみせたが,第三世界の民族解放闘争が階級情勢の「必然」を示していると考えた同時代人サルトルには,マルクス主義=理論的殺人を是とする思想と主張したカミュへの立場的怒りが抑えきれなかった.

 サルトルが編集主幹を務める「現代(ル・タン・モデルヌ)」誌上で,フランシス・ジャンソン(Francis Jeanson)が1952年に,論争の発端となる論文「アルベール・カミュ あるいは反抗心」を発表してカミュ=サルトル論争が決定的に開始される.サルトルの思想と学説を解説する立場にあったジャンソンが,カミュの理論は幼稚で考察が浅いと寄稿「遠慮なく言えば……」で批判し,カミュ=サルトル論争を焚き付ける.

 “反抗的人間は原則的に死に反対する”との立場を崩さないカミュに対し,サルトルは絶交を宣言しカミュ死去の際の追悼文を発表するまで,宣言を覆さなかった.サルトルは思想的に,歴史を否定する立場を徹底的に糾弾する姿勢を崩さなかったとみえる.不条理や反抗の思索を経験して人間主義の道を開くべきと考えたであろうカミュは,歴史へのコミットの超越の方途を考えていたように読める.二人の思想的決裂が散らす火花は,今読み直しても挑戦的な刺激がある.

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Title: LETTRE AU DIRECTEUR DES TEMPS MODERNES

Author: J.P.Sartre, A.A.Camus

ISBN: 4102114092

© 1969 新潮社