▼『ギルガメシュ叙事詩』矢島文夫 訳

ギルガメシュ叙事詩 (ちくま学芸文庫)

 初期楔形文字で記されたシュメールの断片的な神話に登場する実在の王ギルガメシュの波乱万丈の物語.分身エンキドゥとの友情,杉の森の怪物フンババ退治,永遠の生命をめぐる冒険,大洪水などのエピソードを含み持ち,他の神話との関係も論じられている最後の世界文学.本叙事詩はシュメールの断片的な物語をアッカド語で編集しアッシリア語で記されたニネベ語版のうち現存する2000行により知られている.文庫化に伴い「イシュタルの冥界下り」等を併録――.

 力無双であった実在の人物が神格化され,死後は冥府の王と崇められる.紀元前2600年頃,シュメールの都市国家ウルクを治めていたギルガメシュ王(Gilgamesh)の物語.神的性格とノアの方舟に通じる“myth”的な伝説の原型を示している.旧約聖書の2000年以上前に編まれた,この人類最古の叙事詩は,楔形文字で粘土板に刻まれていた.作者不明.

 三分の二は神,三分の一は人間として存在するギルガメシュは,暴君として国民を苦しめた.人々に救いを求められた神々は,ギルガメシュに敵対する猛者・エンキドゥを創造.ギルガメシュとエンキドゥは死闘を演じるが,好敵手として認め合い,杉の森の番人フンババを退治し,友情を深めた.愛の女神イシュタルの誘惑をはねつけたギルガメシュだが,怒った女神は「天の雄牛」を差し向けた.呪いによりエンキドゥは命を落とす.ギルガメシュは“死”という概念に恐怖し,不老不死を求めて長い旅に出た.

 古来より,人間の最大の関心は生と死をめぐる葛藤であることが,雄弁に物語られている.アッシリア語で記された現存する2000語は,損傷が激しく解読不可能の部分も多い.だが,一貫したテーマは「不死」の追求である.「ギルガメシュ」とは,シュメール語で“老人である若者”の意であるという.人間と神との壮絶な争いで描かれたのは,不安と恐怖に抗う人間の手段とは,口伝と筆記による「神話」及び「伝説」というフォームであった.不死を求めるギルガメシュの行為の愚かさを説く酒屋の女主人の言葉は,普遍の叡智として人々の胸に響く.

 ギルガメシュよ,あなたはどこまでさまよい行くのです

 あなたが求める生命は見つかることがないでしょう

 神々が人間を創られたとき

 人間には死を割りふられたのです

 生命は自分たちの手のうちに留めおいて

 ギルガメシュよ,あなたはあなたの腹を満たしなさい

 昼も夜もあなたは楽しむがよい

 日ごとに饗宴を開きなさい

 あなたの衣服をきれいになさい

 あなたの頭を洗い,水を浴びなさい

 あなたの手につかまる子供たちをかわいがり

 あなたの胸に抱かれた妻を喜ばせなさい

 それが〔人間の〕なすべきことだからです

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Title: GILGAMESH

Author: -

ISBN: 4480084096

© 1998 筑摩書房