■「シン・レッド・ライン」テレンス・マリック

シン・レッド・ライン コレクターズ・エディション [Blu-ray]

 1942年8月.アメリカ軍と日本軍は太平洋戦争の歴史の中でも,最も激烈と言われるガダルカナル海戦に突入した.度重なる海上戦と陸地での激烈な攻防戦.数メートル進むだけで多くの命が失われる最前線は,爆風と悲鳴と怒号に包まれる.だが,ひとたび目を転じれば,悠久の大自然が変わらぬ営みを続けている….

 リミア戦争のセヴァストポリ近郊のバラクラヴァ,イギリス陸軍第93歩兵連隊は,2列横隊でロシア軍のセヴァストポリ救援部隊の猛攻を防いだ.第93歩兵連隊の軍服の赤色,横隊の2ラインを指してこの戦線を“シン・レッド・ライン”と呼称するようになった.戦死者よりも餓死者を多く出したガダルカナル島の戦いを素材にした本作は,人間の正気と狂気の間を隔てる「赤い線」が直截的なテーマになっている.しかし“シン・レッド・ライン”は比喩的に敷衍され,戦場という極限状況に立つ兵士の意識の分断,その境界をも意味するものととらえることもできる.

 自然の恵みの宝庫で繰り返される人間の“行為”を俯瞰する超越的視点は,想像を絶するような厳しく美しい生命のありよう,人のなす邪悪で醜悪な様相,それらを等しく地上に現す存在への信心や懐疑を混迷のなかに示す.兵士と軍人の囁きがモノローグとなり,語り手が交代で内面を断片的に明かしていく.内面的な脆さをもつがゆえに,あらゆる人間は恐れや不安とともに存在せざるを得ない.その観念が恐怖となり,恐怖を最大化させる絶望に対する,個人的・集合的な人間の営為.因果を統べる超越的で無形の存在が,愚行を犯す人間全体を常に静観している.

 アニミズム的な畏怖が人類共通の潜在意識となっているであろう確信を,テレンス・マリック(Terrence Malick)は,凄惨なガダルカナル島を舞台に映像詩として見せたのである.そこでは国籍や国民性,人種,個人の善意や悪意も問うてはいない.当時の軍備のディテールを比較的忠実に再現されていることには,鑑賞側もさほど拘泥する必要はないだろう.

 本作については,ジェネオン・ユニバーサルから発売され,現在は廃盤となっている「ブルー・レイ コレクターズ・エディション」の鑑賞を強く推す.すべてのDVD版未収録となっている特典映像「出演者たち」(34分)は,それぞれの思惑を秘めた兵士を演じた役者のうち,作品の本質を理解した者とそうでない者が,画然としていることが解って面白い.おそらくマリックの意図を理解し,汲み取ることができた役者はたった1人である.

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原題: THE THIN RED LINE

監督: テレンス・マリック

171分/アメリカ/1998年

© 1998 Twentieth Century Fox