■「ブラックパワー・ミックステープ ~アメリカの光と影~」ヨーラン・ヒューゴ・オルソン

ブラックパワー・ミックステープ [DVD]

 60年代後半から70年代.米国でアフリカ系アメリカ人によるブラックパワー運動が勃興し,衰退に至るまでの激動の時代.スウェーデンのテレビ局のカメラは海を越え米国に渡り,世界に衝撃を与えたその運動の核心に迫っていく.伝説となる革新者たちが現れ,そして消え去っていった時代.残されたフィルムは何を語るのか….

 ウェーデンの経済学者グンナー・ミュルダール(Karl Gunnar Myrdal)が『アメリカのジレンマ―黒人問題と近代民主主義』を発表したのは,1944年である.黒人の差別問題と貧富の格差のメカニズムを説明するため,ミュルダールが提示したのは「累積の原理」.投資拡大と物価上昇との間に循環的および累積的な相互強化作用が生じるのと同様,黒人の困窮問題と彼らに「飼いならされた,従順で,哀れな黒人」像を強要するコーカソイドの人種主義は,循環的かつ累積的な相互強化関係にある,というものであった.

 南北戦争後,憲法第14条により黒人は市民権を与えられたものの,1960年代後半以後,アジア系およびラテンアメリカ系の人々が大量に合衆国に流入し,コーカソイドネグロイドの対立は複雑化を見せる.黒人投票権法が成立し,アラバマで「黒人のためのブラック・パワー」というスローガンを掲げるブラック・パンサー党が結成されたのは1965年.本作の面白いところは,1967~75年にスウェーデンのテレビ局が取材したアメリカの「ブラックパワー運動」の撮影フィルムが偶然発見され,ここに記録された公民権運動の第2世代ストークリー・カーマイケル(Stokely Carmichael),アフリカ系解放運動のシンボル的存在となった左翼系運動家アンジェラ・デイヴィス(Angela Yvonne Davis)らを中心に,活動家の言動を時系列に整理していることである.

 まさに,当時のアメリカ当局の検閲が入っていない記録というアクの強さが醍醐味.第2世代の闘士は舌鋒鋭くキング牧師Martin Luther King, Jr.)を批判し,スウェーデン人記者に「理想の為には暴力も厭わないのか?」と咎められたデイヴィスは,敵対感情を露わに相手を罵倒する.伝説的な革新者たちの尖鋭さは,映像の中で際立っている.しかし,最も冷静で刺さる言葉を発しているのは,ニューヨークのハーレムに,書店「ナショナル・メモリアル・アフリカン・ブックストア」を構えていた店主ルイス・ミショー(Lewis Micheaux).「黒人は美しい.しかし黒はパワーじゃないんだ.知識こそがパワーさ」.1967年から3年間で,デトロイトなど101の都市で黒人の暴動「長く熱い夏」が起きるも,ブラック・パワー運動は広範な黒人の結集に成功せず,指導者たちは分裂していった.その断面をうかがわせるドキュメンタリー.

++++++++++++++++++++++++++++++

原題: THE BLACK POWER MIXTAPE 1967-1975

監督: ヨーラン・ヒューゴ・オルソン

92分/スウェーデンアメリカ/2011年

© 2011 Story AB, Sveriges Television AB, and Louverture Films LLC