▼『倒された樫の木』アンドレ・マルロー

倒された樫の木 (1971年) (新潮選書)

 本書でマルローは,孤高の巨人の肖像画を描きだす.マルローを自宅に迎えた老政治家は,愛猫を膝に,文明について,ナポレオンについて,ケネディについて,国家と運命について語っている.歴史的政治的資料としても,貴重な記録である――.

 ンドレ・マルロー(André Malraux)は,1945年ド・ゴール政権の情報相,また1958年から11年間は,同政権時代に設けられた文化相を歴任した.2度目の政界引退で,コロンベイにて隠遁していたシャルル・ド・ゴール(Charles André Joseph Pierre-Marie de Gaulle)を訪ね,対話し,書き留めている.樫の木はヘラクレスの火刑のために伐り倒されると,轟音を響かせた――ヴィクトール=マリー・ユゴー(Victor-Marie Hugo)の扉文は,晩年にアイルランド海岸で佇むド・ゴール将軍の威厳と侘しさに合致したイメージ.

空想は雲のように,あるいは草のように,あとからあとからと続くであろうか?門の右側の,君がよく知っているあの大きな樹々の前で,私はしばしば国家の歴史を考える.国家の歴史とは雲のようなものである.しかしながら,1940年にフランスを引受けるということは,庭園師にできるようなことではなかった!

 前衛芸術の雰囲気に触れて育ち,芸術を保護・育成した文化相マルローは,ドゴール主義≒ゴーリズムの精神的遺産をヒアリングする.愛国者ド・ゴールは,ナチズムやファシストが制圧されたとしてもフランスの偉大さは復活しないであろうことを嘆く.「国は癌を選んだ.私にどうすることができたであろう」.議会政治とECの対立がもとで,ヨーロッパから孤立する事態を恐れた経済人からド・ゴールに批判が集中した.自主独立の外交路線の強化は,若者と労働者層の支持が得られず五月革命の萌芽を育てた.

 苦い経験を将軍は噛み締め,倦んでいる.ド・ゴールが在職中に遭遇した暗殺計画は,実に31件に及んだ.1970年に解離性大動脈瘤破裂により歿するまで,フランスという国家の意志を看視し続けたに違いない.政治学者スタンレイ・ホフマン(Stanley Hoffmann)は,「(ド・ゴール思想の)偉大さは,世界において受動的な態度に甘んじることの拒否」と評した.

行動と希望とは引き離せないものだった.希望はまさに人間にしかないものらしい.そこで,個人においては,希望の終わりは死のはじまりと思いたまえ

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Title: LES CH ÊNES QU'ON ABAT

Author: André Malraux

ISBN: -

© 1971 新潮社