| 「仮面の告白」「真空地帯」等を生み，戦後文学の黄金期を築いた伝説の編集者「坂本一亀」の軌跡を辿る．作家たちとのエピソードを交えながら戦後文学の豊穣なる時代を描く――． |
文芸雑誌『文藝』は，1930年代に権威を振い1933年の創刊から1944年までは改造社，以後は休刊期を挟み，河出書房（河出書房新社）が発行する．戦後文学の黄金期を築いた雑誌であったことは，伊藤整『幽鬼の街』，織田作之助『夫婦善哉』，三島由紀夫『假面の告白』，高橋和巳『悲の器』，水上勉『霧と影』など名作，問題作の出版から窺える．
坂本一亀が『文藝』編集長であった時代は，河出書房編集体制の2年弱という短期間である．新人の丸谷才一，竹西寛子，黒井千次らを取り上げた坂本の眼力は並大抵ではなかったということだろう．野間宏『青年の環』脱稿は8,000枚．完成までの6年間に生活費まで全て河出書房が引き受けたというのも凄い話だ．
編集者としての坂本一亀は，ファナティックであり，ロマンティストであり，そしてきわめてシャイな人であった．彼は私心のない純朴は人柄であり，野放図であったが，繊細であり，几帳面であり，潔癖であった
戦後作家の揺籃期には，度量の大きい編集者が奮起していた．その一端を描いた本書は，坂本の強い意向で生前には出版を許されなかったが，子息坂本龍一の依頼で，元河出書房の編集者による評伝として実現した．新書館の『時代を創った編集者101』に，明治・大正・昭和，一世紀余の名編集者の一人に坂本一亀も名を連ねている．
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原題： 伝説の編集者 坂本一亀とその時代
著者： 田邊園子
ISBN: 4878935677
© 2003 作品社
