▼『竹取物語』中河與一 訳註

竹取物語 (角川文庫 黄 4-1)

 平安時代初期に成立したと考えられる作者不詳の物語.紫式部が「物語の祖」と称した物語文学は,日本の小説史の創始と位置づけられた.通説では,平安時代前期の貞観年間 - 延喜年間,特に890年代後半に書かれたとされる――.

 らゆる物語の類型,そのプロトタイプを提示し,普遍的に受容されてきたゆえに,この物語には多様なステータスが認められてきた.異常な生長力で知られる竹から出でて,不思議な神通力で翁に富をもたらし,求婚者に対する無理難題で,時の権力者を揶揄.異世界の住人である悲しみを振りまきこの世界を去り,最後には,富士山という日本の象徴の語源さえ解き明かす.

 構成の起承転結は寸分の隙もなく,いずれかの要素を拡大して独立した物語に焼き直したものが,後の世に溢れた.したがって,数多の小説形態の原型と評価されている.鎌倉時代初期の『海道記』,江戸時代の曲亭(滝沢)馬琴による草双紙『籠に成竹取物語』,四川省チベット族に伝わる『斑竹姑娘』など,数々のパロディと類話も,民俗学的,比較民話学的に原典の魅力には及ばない.

 『後漢書』『白氏文集』の漢籍の影響も本書の成立においては指摘されており,平安時代前期のバージョンが完全なる独創とは思われない.誰が,何を参考に著したのだろうか.何しろ,源順,源融遍昭紀貫之紀長谷雄のうち誰かが書いたのではないかと推測されながらも,決定打は見つかっていないのである.権力者に対する皮肉な和歌も交えるが,日本の四季,かぐや姫の美貌についても具体的な説明は省略される.筋書きの高い完成度は,場面ごとの詳細な描写を必要とせずとも成立した「型」ということである.

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原題: 竹取物語

著者: -

ISBN: 4044004013

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