▼『フーコーの振り子』アミール・D・アクゼル

フーコーの振り子―科学を勝利に導いた世紀の大実験

 世界各地の博物館で,高い天井からぶらさがり,終日揺れつづける大振り子.ガリレオを初めとする歴代の天才科学者たちが試みて果たせなかった証明を19世紀になしとげた,卓越した理論と巧みな技術とを合わせもった科学者が,本書の主人公レオン・フーコーであり,この大振り子は彼の名をとって,「フーコーの振り子」と称されている.彼の振り子がもたらした証明は,科学に決定的な勝利をもたらした,と言われるのだが,その勝利とはいったいどんなものだったのか――.

 世紀にもわたって地球の自転を巡る懐疑論と宗教裁判,運動法則に終止符を打ったレオン・フーコー(Jean Bernard Leon Foucault)の公開科学実験.フランスの首都パリで決定的に勝利を収めた科学は,この在野の物理研究者によって成された.長い針金と重い金属球からなる「振り子」は,サイン関数と緯度(θ)の観点からみて,例えば北極ではθが90度で振り子の振動面が24時間で1周する.θが0度の赤道上では振動面は不動.さらに,振動面が北半球では時計回りに回転するように見える.

 これらが意味しているのは,「地球の自転」である.類稀なる直観力と技術力をもって,フーコー光速度の測定,ジャイロスコープの発明とともに科学界に重大な一石を投じた.が,世紀の科学訓練を受けていないために,科学アカデミーからは冷遇されていた.ニコラウス・コペルニクス(Nicolaus Copernicus)の『天球の回転について』が1543年刊であることを鑑みると,フーコーの登場と科学的勝利は,いかにも科学が漸進性をもたざるを得ないということだろう.

 フーコーの重要な支援者が本書では2名強調される.金属と磁石の電磁誘導現象を発見したフランス科学界の大家フランソワ・アラゴ(François Jean Dominique Arago),亡命と不遇の中で第二帝政を興したナポレオン3世(Napoléon III).フーコーは亡くなる3年前にナポレオンの推挙を受け,科学アカデミーの会員となっている.最晩年の名誉に与ったフーコーの成功により,300年もの間未解決であった自然科学上の問題は,科学者と科学を愛する為政者が協働で地平を開いたのである.

 1851年3月29日パンテオンの公開実験,シャンパーニュ,またブルターニュの大聖堂,ジュネーブアイルランド,イギリスはロンドン,オックスフォード.さらにニューヨークにリオデジャネイロ.各地に集まった人々は,確かに「地球の自転」を眺め,実感した.自転の証明を学んだ神学者たちは,太陽中心のコペルニクス的世界観を取り入れた著述を堂々と発表できるようになった.そのようにしてフーコーの理論の実験は,「美しい実験」として人口に膾炙していったのである.

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Title: PENDULUM - LEON FOUCAULT AND THE TRIUMPH OF SCIENCE

Author: Amir D. Aczel

ISBN: 4152086807

© 2005 早川書房