■「ヴァージン スーサイズ」ソフィア・コッポラ

ヴァージン スーサイズ [DVD]

 1970年代のミシガン州.リズボン家には美しくてかわいく,それでいてどこか謎めいた5人姉妹がいた.ヘビトンボが,美しい郊外の街を覆いつくす6月,そんな5人姉妹の末っ子のセシリアが手首を切ってしまう.一命をとりとめたセシリアだったが,彼女は数日後,自宅で開かれたパーティーの最中,窓から身を投げて命を落とす….

 フィア・コッポラ(Sofia Coppola)が,収まるべきところを見つけた作品である.フランシス・フォード・コッポラ(Francis Ford Coppola)の娘,カーマイン・コッポラ(Carmine Coppola)の孫,タリア・シャイア(Talia Shire)の姪という血統は,映画界の申し子となるアドバンテージであると同時に,負担も過重であったはずだ.「ゴッドファーザー partIII」(1990)の抜擢で失態を演じたソフィアの生きる場所は,役者の世界にはなかった.フォトグラファーやファッションデザイナーを経て,本作で長編映画の監督デビューを果たしている.

 1970年代,アメリカ郊外の保守的家庭で起きた傷ましい出来事“美しい姉妹の集団自殺”は,ヘビトンボの季節と思春期の先鋭なる弱々しさの共鳴の産物.ガーリッシュの旗手としてソフィアが認知される大いなるきっかけは,本作によって引き寄せられている.偉大なる映画監督,女優,映画音楽の作曲家を家族にもつソフィアが,繊細な映像とポップな音楽で瑞々しい感性を主張するイノセンス.「人生には長続きしない完璧な瞬間があり,いつも思い出だけが残る」という彼女の信念は,脆さを呈するパーソナルな問題を扱う方法で一つの回答を導く.

 ビージーズ(The Bee Gees)や10CC,キャロル・キングCarole King),トッド・ラングレンTodd Rundgren),ギルバート・オサリヴァン(Gilbert O'Sullivan)のサウンドに,五人姉妹の磁場に翻弄される少年たち――無知と軽薄が強調されすぎの観はある――を被写体にした浮遊感.さしたる自殺の理由は窺えず,その解明をサンクチュアリから排除する姿勢,すなわちガーリッシュの幻想的装いがソフィア・コッポラの個性として開花した作品.質実の監督作と見て間違いなく,その安定感も重要なファクターとして鑑賞者の記憶に留められよう.

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原題: THE VIRGIN SUICIDES

監督: ソフィア・コッポラ

98分/アメリカ/1999年

© 1999 Paramount Classics