■「キング・コーン/世界を作る魔法の一粒」アーロン・ウールフ

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 大学生のイアンとカートは,普段口にしている“とうもろこし”をもっと知っておきたいと,無謀にも農業を始めるのだが,遺伝子組み換えされた種子や強力な除草剤を使うことにより意外にも簡単に収穫に成功してしまう.更にふたりは収穫したコーンの行方を追って全米30州を横断する旅に出る.そこで“とうもろこし”から自分たちの体に与える,深刻な害毒の数々を目の当たりにしてゆく….

 ウモロコシの世界生産量の4割は米国産といわれ,1エーカーで5トンが収穫される.除草剤抵抗性組換えトウモロコシの種3万粒の植え付けは,18分で終了.コロラド州では肉牛の食料の9割がトウモロコシ主体の濃厚飼料となっており,コーンシロップ,コーンスターチやコーンプロテイン,コーン油の原材料に消費され,さらに近年ではプラスチックの材料,バイオエタノールに活用される.収穫されたトウモロコシのうち,直接的食材となるのは約10%に過ぎない.

 この事実をつかんだ2人の青年が,現代社会で圧倒的ポータビリティを有するトウモロコシを追う旅に出る.ある面では「公共の福利の長」,違った面では「悪魔の排泄物」とされる原油の利権と同様の問題提起.当然日本にとっても無縁ではない.果糖ブドウ糖液糖,ブドウ糖果糖液糖もコーンシロップの同類である.日本の市場規模は,年間800億円から1,000億円.アメリカで30年前から急速に普及した濃厚飼料(トウモロコシを含む)は,粗飼料と違って高タンパク・高デンプン.これにより,牛肉の生産は僅か半年で市場に出回ることになる.

 消化のために大量の胃液を分泌する肉牛には,治療と称して大量の抗生物質が投与されている.おそらく,それも残留して人間の口から入る.本作では,トウモロコシに支えられた食文化を満喫するアメリカ国民は,「史上初めて,親の平均寿命を下回ることになる」と警句を発する.ドキュメンタリーとしては考証が不十分なため,「社会はエラいことになっている」という一驚を示すに留まる.問題の構造には踏み込んでいないが,「キング・コーン」の存在の大きさは感じ取れるだろう.

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原題: KING CORN

監督: アーロン・ウールフ

90分/アメリカ/2007年

© 2007 ITVS, Mosaic Films