■「姿なき一〇八部隊」佐藤武

姿なき一〇八部隊 [DVD]

 夜,すでに灯の消えた東京駅十四番プラットフォームに,半透明の列車が音もなくすべり込んで来た.車輛から降りて整列したのは,サイパン島で玉砕をとげた部隊の将兵たちである.隊長の秋吉少将は「自分たちの肉親がどうなっているか見てくるように」と訓示を与えたあと,二重橋に向った….

 イパン島で玉砕した一〇八部隊の兵士たちが,英霊となり深夜の東京駅に集う.半透明の二重写しで造形された彼らは,この世のものではない.生前と同じように談笑し,おどけてみせたり不安がる師団長以下150名余りは,みな自分が亡霊であることを自覚している.

 一〇八師団,一〇八連隊は実在したが,いずれもサイパンには赴いていない.史実に即した玉砕集団を描くには,戦後10年はまだ短すぎたからであろう.皇居に跪き玉砕を詫びる秋吉少将は,死後もまったく揺らいでいない敬虔さを堅持している.那須中尉の恋人,また気の弱い志水一等兵の妻子は,変わらず彼らを心の拠り所とし,健気に生きていた.

 門柱を残して焼け落ちた実家を知り,母の名を呼び求める河野中尉の悲憤は不憫でもある.愛国心と家族愛を同等に扱うことを戒めた軍国主義下,「散華の御霊」と讃えられた玉砕部隊でも,心残りは家族の行く末である.束の間の一喜一憂の後,彼らの霊魂を再び乗せた軍用列車は,静かに海を越えサイパンへ帰っていく.

 国粋主義プロパガンダに毒されかねない題材であるが,家族の平穏を祈る人々の誠意は,元来澱みがないものである.一〇八部隊の兵士の魂は,懐かしい祖国ではなく今も骨が埋まる南国に戻らねばならない.喧騒にざわつく心を鎮めて鑑賞したい映画といえるだろう.

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原題: 姿なき一〇八部隊

監督: 佐藤武

84分/日本/1956年

© 1956 角川映画