恒星間飛行を実現した人類は異郷の惑星で驚くべき光景を目にする.この星にも人間種族は存在したのだ.だがここでの支配種族は何と,喋り,武器を操る猿たちであり,人間は知能も言葉も持たぬ,猿に狩りたてられる存在でしかなかったのだ.ヒトは万物の霊長ではない.世界中で絶大な反響を呼び,余りにも有名な映画の原作となった問題作――. |
ピエール・ブール(Pierre Boulle)は,第二次世界大戦中に日本軍捕虜としての経験を持ち,その屈辱体験が彼の作品に深い影響を与えた.ブールは戦後,エンジニアとしての経歴を歩み,その後作家としてのキャリアを築いた.特に有名なのは,1952年に発表された『戦場にかける橋』である.この小説は,彼の捕虜としての体験に基づいており,捕虜収容所での過酷な現実を描写している.興味深いことに,小説はブールの意図とは異なり,日本人を「善人」として描いている.物語の構成上の制約や出版社の要望によるものであり,ブール自身は小説の設定に非常に不満を抱いた.
その後,ブールはSFジャンルに転じ,日本人を野蛮な「黄色い猿」として描いた本書を1963年に発表した.フランス人新聞記者と物理学者が恒星間飛行を成功させ,猿の支配する惑星に降り立つというストーリーが展開される.猿が高い知性を有し,人語(あるいは「猿語」)を操り,人間族は知能も文化も持たない下等種族として,猿に隷属させられていた.未開猿と名のついた種々の先史猿はシミウス・サピエンス(知性猿)に終着し,さらに現在ではチンパンジー,ゴリラ,オランウータンと3つの階級があるということである.
猿と進化の途中までは同一だった人間族は,猿とは違い,発達,組織化,複雑化することがなかった.猿は二本の手だけでなく,両脚でも道具を持て,指も人間より長いので遙かに複雑な作業ができる.それが自然の摂理なのである.したがってシミウス・サピエンスが高い知能を獲得した,とされるのだが,実際には地球での人間の優越性を説明する時には,これとまったく逆の論理が提示される.人間が猿の支配下にあるという逆転現象が起きており,ブールはここで人間と猿の関係を通じて,人類の本質や文明の意味について問いかけている.
しかしながら,この作品の結末は,映画と原作で異なっている.映画の結末はセンセーショナルである一方,原作では異なる結末が用意されている.映画と原作とでアプローチや意図が異なるためであり,両者の比較は興味深いものとなる.本書はその後,シリーズ映画や前日譚として繰返し映画化され,特に1968年版は高い評価を受けた.原作の結末は,ブール自身の個人的な経験や信念に基づいており,作品全体のテーマと一貫性が保たれている.
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Title: LA PLANETE DES SINGES
Author: Pierre Boulle
ISBN: 4488632017
© 1968 東京創元社