フランス北部のかつて炭鉱で栄えた町エルナン.だが今は,炭鉱の閉鎖によって,失業者のあふれる貧しい町だ.ダニエル・ルフェーヴルは,この町で幼稚園の園長として教育に情熱を注いでいた.しかし,不況の波は子どもたちの生活環境を変え,授業料を払えない親も出てきた.ある日,赤ん坊を連れて娘を幼稚園に迎えに来たアンリ夫人は,ダニエルの目の前で倒れこんでしまう.すさんだ生活からか,したたかに酔っていた.夫人は恥ずかしさにいたたまれず,赤ん坊と娘を残したまま走り去った…. |
フランス北部で不公正と闘う幼稚園長の苦悩を描き,家族政策に注力する福祉国家フランスの教育,福祉,家族のあり方を問いかける.ベルトラン・タヴェルニエ(Bertrand Tavernier)の友人で詩人ドミニク・サンピエロ(Dominique Sampiero)には,幼稚園長としての経験がある.
サンピエロの実体験には,市の予算が不足する中で幼児教育を継続する教師の苦心,貧困からくる大人の心の荒廃,行政介入が非合理というべき「失敗」の結果としての一家心中などが含まれていた.タヴェルニエは,子どもを取り巻く大人の力関係を軸に,陰鬱な雰囲気の中で子どもを守ろうと日夜奮闘する幼稚園長ルフェーヴルを通じて,社会的良心を訴える.
その手法に衒いはない.情熱と怒りに駆り立てられるルフェーヴルにも,精神力の限界はある.辞職を考えるほどに神経を参らせた彼を,教育現場に引きとめたもの.それは,幼稚園の祭りをリサイクル用品で飾り立てる作業,無心に楽しみを待つ子どもの瞳.自分の職務の苦しさこそが,次世代の芽を促す種なのだ.感得がメッセージ性として据えられている.
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原題: CA COMMENCE AUJOURD'HUI
監督: ベルトラン・タヴェルニエ
118分/フランス/1999年
© 1999 Canal+/Les Films Alain Sarde/Little Bear/TF1 Films Production