▼『ダイアローグ』デヴィッド・ボーム

ダイアローグ――対立から共生へ、議論から対話へ

 偉大な物理学者にして思想家ボームが長年の思索の末にたどりついた「対話(ダイアローグ)」という方法.「目的を持たずに話す」「一切の前提を排除する」など実践的なガイドを織り交ぜながら,チームや組織,家庭や国家など,あらゆる共同体を協調に導く,奥深いコミュニケーションの技法を解き明かす――.

 子力学の世界的権威デヴィッド・ボーム(David Bohm)は,人類と自然の調和や全人類の融和といった哲学的テーマにも深い関心を寄せていた.特に「対話(ダイアローグ)」の重要性に焦点を当てている.ディスカッションは通常,「意思決定」に向けた討議を指すが,対話は「意味の共有」を目的としている.ダイアローグのアプローチでは,参加者は定義や概念を共有し,互いの見解を一致させることを目指す.

 ダイアローグの過程では,発見的な推論や仮説を試みることが重要であり,結論を急ぐことなく,対話の過程そのものを重視する.対話における思考は,単なる論理的な厳密さではなく,直感や共感を含む広範な理解を求めるものだ.一方,ジョージ・ポリア(George Polya)は,「断定的で厳格な議論のみを受け入れるべき」との立場を取った.ポリアは,形式的に証明されたことを直感的に理解するには大きな精神的エネルギーが必要であると主張した.

 ポリアの視点は,厳密な論理的思考の重要性を強調し,ボームの対話のアプローチとは対照的であった.ダイアローグは,調和を重視し,異なる見解を融合させることを目的とした.経営論やリーダーシップ論においてもボームのダイアローグは注目されており,直感的な理解と論理的な思考のバランスを取ることが強調されている.ダイアローグは,調和を乱す分断を避け,共通の理解を深めることが求められ,問題の理解,既知と未知の関連性の把握,計画の立案,実行,そして振り返りといったプロセスを含む.

対話の目的は,物事の分析ではなく,議論に勝つことでも意見を交換することでもない.いわば,あなたの意見を目の前に掲げて,それを見ることなのである…さまざまな人の意見に耳を傾け,それを掲げて,どんな意味なのかよく見ることだ.自分たちの意見の意味がすべてわかれば,完全な同意には達しなくても,共通の内容を分かち合うようになる

 深いコミュニケーションの一環である「対話」を定式化しようとすると,誤解が生じるリスクがある.ボームの意図とは異なる解釈がなされる可能性があり,その結果,対話の本質が失われる懸念がある.人間の認識は個別に変化し,抽象的な観念が対話に影響を及ぼす.そのため,ボームの「共同体を協調に導く,奥深いコミュニケーション」を実現するには,形式的な枠組みに囚われない柔軟なアプローチが必要なのである.

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Title: ON DIALOGUE

Author: David Bohm

ISBN: 9784862760173

© 2007 英治出版