The Best & the Brightest‥‥ケネディが集め,ジョンソンが受け継いだ「最良にして最も聡明な」人材だと絶賛されたエリート達が,なぜ米国を非道なベトナム戦争という泥沼に引きずり込んでしまったのか.賢者たちの愚行を,綿密な取材で克明に綴るベトナム問題の記念碑的レポート――. |
ケネディ政権の後に誕生したジョンソン政権では,「最良かつ最も明晰」とされる人材が結集した.両政権の国務長官を務めたディーン・ラスク(David Dean Rusk),両大統領の側近となった国家安全保障問題担当特別補佐官マクジョージ・バンディ(McGeorge Bundy),国防体制の合理的再編成による徹底した経費削減でベトナム介入政策を推進した国防長官ロバート・マクナマラ(Robert Strange McNamara).彼らは東部アイビーリーグをきわめて優秀な成績で卒業し,洗練された知性と愛国心を誇った.その面々が国益を損なわせ,モラルにも反する「泥沼」戦争を引き起した主要なアクターであったことを,詳細かつ広範な取材にもとづいて再現ドラマ的に再構成する.
権力最深部に集ったエスタブリッシュメントの偏見や傲慢,過信が混沌の「出口のないトンネル」を先導したことを痛烈に暴く,ニュー・ジャーナリズムの金字塔である.デイヴィッド・ハルバースタム(David Halberstam)は,公民権運動の取材記者を経て,ニューヨーク・タイムズの記者として南ベトナムに赴き,15ヵ月間ベトナム戦争を取材した.ベトナム戦争を「泥沼」とする代名詞を定着させたのは,1965年『ベトナムの泥沼から』である.ベトナム介入を批判する記事を書く敏腕記者を疎ましく考えたジョン・F・ケネディ(John Fitzgerald Kennedy)は,特派員ハルバースタムを社に呼び戻すようニューヨーク・タイムズに圧力をかけたという.
アジアの弱小国ベトナムは蚤,大国アメリカは百獣の王と信じて疑わない「ベスト&ブライテスト」は,ペンタゴン作戦本部机上に広げられたインドシナ半島東部の地図を囲み,安上がりのコストで無差別爆撃も辞さない「シナリオ」を立案,それを実行した.無謬のエビデンスと考えられたのは,合理的な近代経営学的手法と統計分析で相手を論破し続けたマクナマラのロジックであり,中国・ビルマ(現ミャンマー)・インド戦線副参謀長を歴任したラスクの進言だった.ケネディ政権の栄光と興奮を引き継いだジョンソン政権のプログレッシブな理想に,戦争懐疑派の意見も呑み込まれ,反共の意義も与えられた泥沼戦争は一層拡大し続けたのである.
自国の愚行に気づいた米国民による反戦運動が高まった頃には,人種対立,ドル下落もあって政権は凋落の末期にあり,1968年3月の任期満了後に再出馬しないことを大統領は宣言,引退した.その後,アメリカ陣営の推定戦死者22万5000人,北ベトナム・解放戦線側の推定戦死者97万6700人といわれる泥沼戦争を指導した「最高の知性」には,どのような道が用意されたのか.バンディはフォード財団理事長に就任,同財団理事長を1979年まで務め,それから1989年までニューヨーク大学で歴史学の教授を務めた.ラスクは,国務長官引退後,1970年から1984年までジョージア大学で国際法教授を務めた.マクナマラは,国防長官を辞任後,1968年から1981年まで世界銀行総裁の座にあった.
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Title: THE BEST AND THE BRIGHTEST
Author: David Halberstam
ISBN: 4022612614, 4022612622, 4022612630
© 1999 朝日新聞社