▼『ミカド』ウィリアム・グリフィス

ミカド: 日本の内なる力 (岩波文庫 青 468-1)

 東京大学の前身である南校で教鞭をとり,明治天皇に拝謁する機会をもったアメリカ人教師グリフィス(一八四三―一九二八)が,明治天皇の生涯をたどりながら,明治維新=日本の近代化が西欧の衝撃によるものではなく,日本人全体の力による歴史的必然であることをあとづけた書.特に天皇の日常生活を生々と描いた第三十章が興味ぶかい――.

 ィリアム・グリフィス(William Elliot Griffis)"The Mikado's Empire"は,19世紀後半から20世紀初頭にかけての日本の政治,文化,社会に対する西洋の視点を提供する重要な文献である.特に「ミカド(天皇)」という概念に関する解釈は,当時の日本の国体と権力構造を把握する上で皇室や天皇制度についての理解を深める貴重な資料である.グリフィスが1915年にニューヨーク州イサカで書いた文章は,天皇(ミカド)を高貴な象徴として捉えていた.彼は天皇を,宗教的な力や国旗と同様に,社会的な力の象徴とみなしている.

 天皇は,日本の文化と社会における特権的な階級の頂点に位置し,その権威は,宗教的な魔力や偉大な名称と結びついているという見解であった.第二次世界大戦後の1946年「天皇人間宣言」は,天皇が神格を持たないという宣言であり,天皇天照大御神の直系の子孫であるという神話的な地位を否定した.この宣言は,日本の近代化と民主化の過程で重要な転換点となった.グリフィスの時代から半世紀を経て,天皇の象徴性は政治的な道具としての役割から,より人間的な側面へと移行する.

 グリフィスが日本に滞在していた時期は,明治政府が近代化を推進していた時期と重なっている.明治時代初期に来日し,当時の福井藩松平春嶽の招待で教育に携わった.松平は,洋学の強化を通じて日本の近代化を目指し,宣教師グイド・フルベッキ(Guido Verbeck)を通じてグリフィスを招聘した.1872年,グリフィスは大学南校(東京大学の前身の一)に移り,物理学,化学,精神科学などを教え,日本の高等教育の基盤を築く上で重要な貢献をしたと評価されている.

 グリフィスの視点は,天皇制が単なる政治的制度ではなく,日本の精神的基盤に深く根ざしたものであるという理解を促すものであった.西洋の植民地主義的な視点を反映している部分もあるが,グリフィスの詳細な記述と洞察は,当時の日本を理解するための貴重な資料を提供している.日本と東洋に関する著書50冊,100の論文の中で1875年のアメリカ帰国後,刊行した"The Mikado's Empire"は,初版625ページの大著.第一部「日本の歴史」,第二部「日本における個人的体験,観察,研究」からなる代表的著作である.その要諦は,本書でコンパクトにまとめられている.

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Title: THE MIKADO

Author: William Elliot Griffis

ISBN: 4003346815

© 1995 岩波書店