米中の衝突を確実視し,世界各国の外交戦略を揺るがす“攻撃的現実主義(オフェンシヴ・リアリズム)”とは!?過去200年間の世界史的事実の検証から,きわめて明晰,冷徹,論理的に国際システムの構造を分析,北東アジアの危機と日本の運命も的確に予測する――. |
国際政治の舞台において,大国が地域覇権を追求する動機は,しばしばその国固有の文化や価値観から来るものではなく,むしろ国際システムからの構造的圧力に由来する.国際システムは,無政府状態(アナーキー)にあり,この状況下では,各国は他国からの脅威に対する自国の生存を最優先とする傾向がある.この構造的な圧力が,大国をして軍事力を増強させ,潜在的な敵対国やライバルとなる潜在的覇権国を抑え込もうとする行動を取らせるのである.国際政治における各国の行動は,しばしば善悪の二元論によって理解される.自国を善とし,他国を悪と捉える傾向が強い.特にアメリカ合衆国においては,エリート層が正義を掲げつつも,実際には打算に基づいた行動を取ることが多い.アメリカの政治文化に深く根付いた自由,個人主義,協調といった概念は,しばしば普遍的価値とされ,世界中の人々がこれを自然に受け入れると信じられているが,これはアメリカの自己認識に過ぎない.
国際政治のリアリスト(現実主義者)は,国家が常に生存のためにパワーを追求すると主張する.ジョン・ミアシャイマー(John J. Mearsheimer)は,本書で国際政治学の著名な現実主義者として,大国がパワーを追求する動機を国際システムの構造に関連付けて考察している.すべての国家が軍事力を持ち,他国の意図を完全には知ることができないため,国家は生き残りをかけて覇権を目指すと述べる.この考え方は「攻撃的現実主義」――オフェンシブ・リアリズム――として知られ,国家が自らの生存を確保するために,他国に対し攻撃的になることが不可避であるとする.20世紀には,ファシズム,共産主義,そして欧米のリベラルデモクラシーという3つの主要イデオロギーが激しく対立したが,最終的にはリベラルデモクラシーが生き残った.この結果,冷戦期にはアメリカ主導で「マーシャルプラン」が実施され,ソビエト連邦とその影響下にある東欧以外の西欧圏に対する現実主義的な対外政策が推進された.
この時期,アメリカの外交政策に影響を与えた神学者ラインホールド・ニーバー(Reinhold Niebuhr)は,リベラルデモクラシーを「光の子」,全体主義を「闇の子」として二元論的に捉えつつも,理想主義と現実のバランスを取ることの重要性を説いた.ニーバーの視点は,現実主義者が極端に走らず,むしろ平和主義に傾くことが多いという点で,現代の国際政治にも影響を与えた.ミアシャイマーによれば,国家の最終目標は地域覇権を達成することである.地域覇権を確立することにより,国家はその地域での行動の自由を確保し,他の地域に干渉して,覇権国の出現を防ぐことができる.この視点から,アメリカは自国が唯一の地域覇権国であり続けるために,他の地域で覇権国が出現するのを阻止しようとする.特に,アジアにおける中国の台頭はアメリカにとって重大な脅威とされ,アメリカは同盟国と協力して中国の影響力を抑え込もうとしている.アジアは現在,世界で最も重要な地域の一つであり,中国は北東アジアにおいて覇権を追求している.
多くのアジア諸国にとって,中国の台頭は脅威であり,これらの国々が米国と協力して中国に対抗する可能性が高い.しかし,中国から見れば,米国とその同盟国が中国を封じ込めようとする動きは挑発的であると映る.ミアシャイマーの理論は,国際システムの構造が国家にパワーの追求を強制し,これが時に悲劇的な結果を招くことを示している.国家はその特有の性格やイデオロギーによってパワーを追求するのではなく,無政府状態にある国際システムの圧力によってそうすることが求められる.この現実を認識し,各国がどのように行動するかを理解することは,国際政治の不安定性を理解するために不可欠である.国際社会においては,覇権を求める動きが悲劇を生むことは避けられないかもしれない.しかし,現実主義の立場からは,この構造的圧力を理解し,それに基づいた現実的な政策を追求することが,国際社会の安定を維持するための唯一の道といえるだろう.
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Title: THE TRAGEDY OF GREAT POWER POLITICS
Author: John J. Mearsheimer
ISBN: 9784909542175
© 2019 五月書房新社