▼『アメリカとアメリカ人』ジョン・スタインベック

アメリカとアメリカ人: 文明論的エッセイ (平凡社ライブラリー す 4-1)

 生誕百年を迎える文豪スタインベックによる出色のアメリカ人論.グローバル化とともに,いっそう切実な問いとなっている「アメリカとは何か」に対する古典的な答えがここに.サイマル出版会1969年初版の再刊――.

 タリアの航海者アメリゴ・ベスプッチ(Amerigo Vespucci)が南米大陸マゼラン海峡まで南下し,現在の南北アメリカカリブ海諸島を「新大陸」と呼んだ.ドイツの地理学者マルティン・ヴァルトゼーミュラー(Martin Waldseemüller)は,ベスプッチの名をラテン語読みで"Americus"とした名で新大陸を呼ぶことを提唱した.これは,当初はコロンブスの発見した地域――西インド諸島南アメリカ大陸――を指すことばであったが,のちに西半球の大陸全体を意味するようになったという.

 アメリカ社会の硬貨に記載されてある言葉「多様性の統一」.これを見るまでもなく,アメリカ及びアメリカ人の特質は,人種や文化,エネルギーの坩堝ということにある.独立宣言の「民衆」におけるイメージは,国家として若い「統一体」を目指してきたアメリカのフロンティア精神.これをひとつの意見,推測,仮説とジョン・スタインベック(John Steinbeck)は位置づける.

われわれは時に失敗し,誤った道をとり,新しく継続するために立ち止まり,腹を満たし,傷口をなめた.しかし絶対にあと戻りはしなかった.絶対に

 若い世代に当たる「現代」のアメリカ人にとっては,怒りを噴出させるエネルギーは,文明病ともいえる「倫理不在性」に蝕まれているとスタインベックはとらえた.しかし,旧世代による西部開拓が培ってきた精神性は,数々の苦難をも勇気をもって切り開いてきた動力.それが失われてきたわけではなく,影をひそめているだけだと信頼や期待をもって,希望を本書では語る.多様性の統一を母体的体験をもって楽観主義的に語っているスタインベックの最晩年の著作.20世紀後半からの超大国の歪みを予見する記述はない.

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Title: AMERICA AND AMERICANS

Author: John Steinbeck

ISBN: 4582764436

© 2002 平凡社