▼『マイ・レフトフット』クリスティ・ブラウン

マイ・レフトフット 新装版: クリスティ・ブラウン物語

 生まれながらの重度の脳性麻痺障害のために左足しか動かない体.その苦悩,恨み,絶望を越えて,一人の芸術家が誕生するまでの苛酷な半生を綴った稀有な自叙伝――.

 性麻痺は,受精から生後4週までに脳が損傷を受けることで発症すると考えられている.この損傷の影響は,損傷を受けた脳の部位によって異なり,運動機能,言語能力,認知能力など,広範な障害をもたらすことがある.クリスティ・ブラウン(Christy Brown)は,アイルランドのダブリンで生まれ,母親の異常分娩によって重度の脳性麻痺を有した.彼の自伝は,その厳しい人生の始まりから,彼がどのようにして芸術家としての道を切り開いたかを詳細に描いている.

 ブラウンの場合,左脚と左足首以外のすべての四肢がほとんど制御不能であった.これは,日常生活のあらゆる側面で重大なハンディキャップを意味していた.加えて,言語にも障害があったため,彼が自分の考えを他人に伝えることは非常に困難であった.しかし,彼の精神状態は他の健常者と比べて決して劣るものではなく,むしろ芸術的な才能に恵まれていた.ブラウンは,唯一動かすことができる左足を使って,絵を描き,文章を書いた.

 ブラウンの物語は,単に「障害者」の成功譚としてだけでなく,障害という概念をどのように捉えるかを考え直すきっかけとなる.彼の生涯は,「障害者は不幸である」という一般的な認識に対して抵抗を示した.この認識は,しばしばノーマライゼーション(Normalization)思想に反するものである.ノーマライゼーションは,障害を持つ人々が社会的に排除されることなく,普通の生活を送る権利があるという考え方である.この視点から見ると,「障害は個性」という言葉がもたらす社会的な影響は,逆に障害者に対する見えない暴力となり得る.

 本書は,彼がどのようにして自分の芸術的才能を発見し,社会の中でその才能を認めさせるに至ったかを描いている.ブラウンが表現する能力を持っていたことは,世間に大きな衝撃を与えた.彼が足だけで絵を描き,文章を書くことができたことは,単なる技巧を超え,障害があっても人間の尊厳が損なわれるべきではないという強いメッセージを社会に伝えた.障害の有無にかかわらず,すべての人が自分の能力を最大限に活かして生きる権利があることを示し,単なる「支援を必要とする存在」ではなく,尊厳を持つ人格を尊重するためのインクルーシブな認識を再考させるだろう.

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Title: MY LEFT FOOT

Author: Christy Brown

ISBN: 4393495152

© 1997 春秋社