刑務所に服役しているサンドラは,娘との面会時にトラブルを起こしたことから,出所がまた遠のく(「サンドラ」).ダイアナは偶然昔の恋人に再会し,それぞれが互いをまだ愛しているという事実に愕然となる(「ダイアナ」).父親とのトラウマが原因で家を出ていたホリーが,自暴自棄のまま突然帰ってくる(「ホリー」).友人夫婦の家に招かれたソニアと夫.突然夫の口から友人に向かって明かされる,彼女の秘密(「ソニア」)‥‥9のエピソード. |
猫に九生あり(A cat has nine lives)という故事がある.動物学者デズモンド・モリス(Desmond Morris)は,9は特別縁起のいい「三位一体をあらわす3つ一組」がさらに3つという数なので,強い生命力をもつとされる猫に与えられた数字と考えた.ガブリエル・ガルシア=マルケス(Gabriel José García Márquez)を父にもつロドリゴ・ガルシア(Rodrigo García)は,父譲りの個性的群像を描く手法に長けている.
瞬間をリアルな映像詩で切り取る技法は,オムニバスの特性によくマッチしている一方,ガルシア=マルケスの魔術的リアリズムを模倣することを,ロドリゴは慎重に回避しているようだ.しかし猫の九生を連想させる9人の女性が見せるのは,隠忍と葛藤の瞬間.各自が後ろ髪を引かれるような苦渋が,編集を遠ざけたワンシーン/ワンカットで最大限に演出される.
スーパー・マーケット,路地,屋内といった日常風景に外的刺激はそもそもなく,描こうとしたのは痛ましい状況に置かれた女性たちの心の動揺である.さらに各10分程度の9つの章は,異性間あるいは親子間における苦悩に分類できる.エピソード1で娘との面会に執着する服役囚と,エピソード9で墓参りにやってきた親子の話は,感情の「爆発」「沈静」の意味で対照をなし,全体の最初と最後を飾る“母2人”は,深い精神性の部分で共通の「願い」を抱えている.
他者に対する愛情と執着に幸福の境界線を見出そうとした全9章だが,親と子の間に流れる感情の強靭さが印象深い.エンドクレジットに入る直前,生者と死者のふれあう墓地特有の「秘密」がズームバックで明かされる.客観的事実にはなりえない真実性,そこには魔術的リアリズム独特の片鱗が確かに認められる.
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原題: NINE LIVES
監督: ロドリゴ・ガルシア
114分/アメリカ/2005年
© 2004 Nine Lives, LLC.